「検討おじさん」岸田氏の経済政策が空中分解の訳 ぶち上げたはいいが…新しい資本主義の現在地

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政府と経団連は、減税は設備投資と賃金の両方を押し上げると主張したが、どちらの約束も実現しなかった。実際、企業はペーパー投資(財テク)で眠っている資金をかき集めているので、所得税が2倍になったとしても、企業は賃金と設備投資を増やすのに十分すぎるほどの資金を持ってはいる。

実質的に、企業が実体経済から得ている資金は、再投資している資金を上回っており、政府は不況を避けるために慢性的な赤字支出を続けざるを得ない状況になっている。

法人税増税阻止に躍起

過去の法人税減税の一部を撤回することは、新しい資本主義を実現する最も簡単な方法の1つである。昨年5月、自民党税制調査会の匿名の委員は時事通信の取材に対し、「(法人税の)大幅な引き上げはできないが、日本の現状に合った構造改革を行う必要がある」と述べている。

このプロセスを始めるきっかけとなったのは、岸田首相が今後5年間で防衛費をGDPの2%に倍増させることを決定したことだ。法人税は、2021年に企業が支払う17兆円に対して、約4兆円の増税となる。

自民党税調の有力者である宮沢洋一氏は岸田首相のいとこであり、防衛費引き上げの財源として他の歳出の削減を望んでいた。しかし、そうした削減が十分でなければ、法人だけでなく富裕層への増税も検討すると同氏は10月、ロイターに語っている。

自民党と各省庁の抵抗勢力は、すぐに企業を擁護するようになった。経済産業省のある幹部は、11月筆者に「法人税増税阻止は経産省の最優先課題だ」と語った。このときの私の取材目的は、経産省の新興企業促進への取り組みについて話すことだったので、このことは示唆に富んでいた。

結局、政府は最終決定を先延ばしにして、財政赤字の拡大路線に逆戻りした。まず、4兆円のうち法人税増税で賄うのは、わずか7000億円という案が出された。残りは歳出削減と、福島原発事故の復興対策として予定されていた税収のシフトによって賄われる。

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