高浜:マンガ好きのフランス人から聞いたんです。特殊な人がひとりだけいて、それで私も「あっ、いける」と思ったんです。その人は、ストーリーが面白かったのだと思います。その後は画力がどうとかいうことをあまり思わなくなりました。
塩野:そういえば、どれもストーリーテリングが巧みですね。『トゥー・エスプレッソ』も、ダイアログで話が進んでいくけれども、最後、一気に収束していく、映画的な印象です。
高浜:これはドタバタ喜劇を作ろうと思ったんですね。
塩野:それに比べると、幕末の遊郭が舞台の『蝶のみちゆき』や昭和初期の風俗を描いた『四谷区花園町』は、かなり下調べをしてストーリーを作っている感じがしますね。
場面によって描き方を変えた
高浜:そうですね。『四谷区花園町』のときはうなぎ屋のことがあったので、あんまり余裕がなくて、手元にある資料のみで描いていたのですが、資料を基に創作することがだんだん楽しくなってきて、次に何か描く時は、もっとちゃんと調べたいと思ったんです。ですから『蝶のみちゆき』は、いちばん最初に資料をかなり集めて読み込んで、設定を作りました。
塩野:『四谷区花園町』は、最後のシーンが現代に続くのが素敵でしたよね。
高浜:ここまで昔のアニメを見ているようなお話が進行して、ここから現実に戻るということで、結末だけ鉛筆描きに変えたんです。
塩野:物語の途中から絵の描き方が変わるっていうのは新しいですよね。『蝶のみちゆき』は舞台が長崎ですが、ゆかりがあるのですか?
高浜:私はもともと出身が熊本県の天草なんです。でも、天草は昔、長崎県に含まれていたので、方言もほとんど一緒ですし、文化も人間性も熊本よりは長崎のほうに近い気がしています。それに、『蝶のみちゆき』の時代には長崎が文化の最先端だったんですよ。
塩野:そうですよね。オランダから入ってくるいろいろな新しい事物と、廓(くるわ)、花街の華やかさがミックスされてて、絵にその世界観が表されていますよね。廓の言葉使いも独特です。
高浜:これが結構大変だったんです。実は長崎は廓言葉(くるわことば)を使ってなかったんじゃないか、という説が有力で、どうしようか悩みました。でも、だいたい地方の廓では、東京とか上方をまねて使っているんですよね。
塩野:東京が「ありんす」、上方が「おす」ですね。
高浜:九州の人がまねするなら、地理的にも近い京都で使われている言葉を選ぶんじゃないかと思いました。で、基本を「おす」にしたんです。ここまではいいんですが、「おす」がどのように活用していくのかがわからなくて……。
塩野:「おす」とか「おした」とか、語尾の活用形ですね。
高浜:途中までなんとなく想像で描いていたんです。でも最後の最後で、ずっと絶版になっていて手に入らなかった『廓言葉の活用』という本が手に入りまして。それで最終確認をして、印刷前の最終段階で「多分、これで間違いないだろう」という言葉使いに修正することができて、なんとか仕上がったんです。
(構成:圓岡志麻、撮影:今 祥雄)
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