米国が喜ぶ岸田首相の「安倍化」加速している事情 日本の新たな安全保障・防衛戦略が示すこと

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2014年の憲法解釈変更による集団的自衛権行使容認(2015年防衛法制化)に代表されるように、ゆっくりと燃えていた炭に、今ガソリンがかけられたのだ。これはロシアのウクライナ侵攻という形で現れ、日本国民及び、安全保障に携わる官僚たちに大きな衝撃を与えている。

「私が驚いたのは、日本人がウクライナに対していかに協力的であったかということだ」と、日米同盟に長らく携わった経験を持つ人物は話す。「ウクライナの苦境に対する共感が、自民党と官僚に新たな軍事能力を生み出す窓を開いたのだ。日本人はウクライナ人に起きていることを見て、日本では同様のことが起きてほしくないと思っている」。

ウクライナ侵攻は令和の「黒船来航」

日本の元外務省高官は、ウクライナ戦争の影響を、日本に開国を迫ったきっかけとなったペリー提督の黒船来航になぞらえている。この場合、ウクライナ戦争は日本の安全保障政策の長い進化の過程を締めくくるものであり、その一因は、北朝鮮のミサイルと核兵器の脅威の増大や、中国による東シナ海での軍事的プレゼンスの積極的主張など、地域の情勢に起因する。

日本が、加速度的に安倍元首相が描いた方向へ進んでいることを示す最たる例は、長距離巡航ミサイルの購入を決定したことである。当初はアメリカの旧式トマホークミサイルの大量在庫を導入するが、これにより日本は中国や北朝鮮までの標的を攻撃できる能力を有することになる。この能力に関する理論的な議論は1950年代半にもあったが、安倍元首相の時代により語られるようになった。しかし、この構想は自民党内でも、また自民党の連立パートナーである公明党からも、かなりの反対を受けてきた。

ところが、ウクライナ侵攻により、自民党は同案を新たな防衛計画の重要な部分として押し通すことができた。公明党に配慮して、新方針ではこれを「反撃能力(敵地域攻撃能力)」と呼び、北朝鮮のミサイルに対する先制攻撃については今のところ言及を避けている。

ミサイル導入の決定は、日本の防衛政策と意思決定をアメリカとより緊密に結びつけ、北大西洋条約機構(NATO)やオーストラリアと新たな安全保障パートナーシップを構築しようとする、より幅広い動きの一部に過ぎない。つまり、これは日本国憲法が事実上禁止している、共同司令部を伴うNATO方式とはほど遠く、日米双方ともこの体制を受ける用意はない。

が、それには及ばないものの、NATO型への変化は静かに進行していると見ていい。日米の共同作戦計画は、以前は合同演習に隠れて行われていたが、今では公然と行われるようになった。これが今週ワシントンで開催された日米の国防・外務担当閣僚協議(2プラス2)の明確なメッセージであったが、日米両サイドともこうした協議がどこまで進んでいるかという質問に対しては慎重な姿勢を見せた。

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