米国が喜ぶ岸田首相の「安倍化」加速している事情 日本の新たな安全保障・防衛戦略が示すこと

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こうした中、アメリカの防衛政策の専門家は、ウクライナ戦争が日本の考え方や安保同盟に与える影響を注視している。

オバマ政権の元国防高官で、現在はニュージーランド・ウェリントンのヴィクトリア大学で教鞭をとるヴァン・ジャクソン氏は、「同盟関係の微妙な変化の背景には、ウクライナ理論といっていいものがある」と指摘する。「侵略をしばらく撃退できる能力があれば、同盟国による協力を得る能力を促進できるという考え方だ」。

巡航ミサイル導入が意味すること

こうした静かなステップにもかかわらず、日本の政府関係者は共同作戦の話や、ましてや司令に関する話を避けるように注意している。長距離ミサイルの導入は、日本自身の自衛的抑止力の一環であると考えられている。

だが、トマホーク巡航ミサイルの使用は運用上、日本をアメリカの防衛作戦計画にさらに強く縛り付けることになる。アメリカならではの高度な情報収集、監視、偵察(ISR)がなければ使えないからだ。ジャクソン氏は、「日本が実際に狙っているものを打ちたいとしても、アメリカ側はそれに対する拒否権を持っている」と話す。

また、「ミサイル単体の利用というのは現実的ではない」と、アメリカの防衛関係者らは口を揃える。「シリアの空軍基地に50発のトマホークを打ち込んだ際、1週間後には基地が稼働していた」と前述の日米同盟に詳しい人物は話す。「トマホーク単体では解決にならない。われわれは、互いに協調して動作する能力を構築しようとしている」。

こうした現実がある一方で、真のNATO型集団防衛組織、つまり日本が自衛を超えた作戦を行うことを想定した組織は、現状日本人が支持する範囲をはるかに超えている。そして、新安保関連文書は、その限界を日本の基本原則と政策だと明確に繰り返し伝えている。

新安全保障戦略で求められているのは、アジアにおける多国間安全保障の枠組みの緩やかさである。それはアメリカとの同盟から始まり、今回の訪問で岸田首相が署名したイギリスとの新しい安全保障の枠組みや、新しい第6世代戦闘機の製造協力も含まれる。

「NATOは正しいパラダイムではない」と日米同盟に携わっていた人物は主張する。「日本は相互の利益とイニシアチブに焦点を当てる必要があるのだ」。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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