アメリカ賃上げ策は「ライバル企業への転職促進」 「競業避止義務」が賃金と生産性を蝕んでいる

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ただ、そのような州であっても、企業が雇用契約に競業避止義務規定を含めるケースが多い。この規定が一因で採用の申し出を断ったことがあると報告する労働者も多く、州の規制効果には限界がある様子がうかがえる。専門家によれば、こうした州の労働者の多くは、競業避止義務規定には法的な強制力がないということを必ずしも認識していない。

「雇用主が競業避止義務規定を用いて労働者の流動性を妨げることで、労働者の賃金が著しく抑え込まれていることが調査で明らかとなっている。競業避止義務の対象でない労働者や、州法の下で競業避止義務に法的強制力がないとされた場合ですら、同様の現象が見られる」。FTCのエリザベス・ウィルキンス政策企画室長は声明でそう述べた。

FTCの今回の規制案は、雇用主に対し既存の競業避止義務を撤回し、労働者に今後は同義務が適用されない旨を周知するよう義務付けることで、問題に対処しようとしているようだ。

雇用主が労働者と競業避止義務契約を結ぶ、または結ぼうとすること、あるいは法的強制力がないにもかかわらず労働者に対し競業避止義務の縛りがあるとほのめかすことも違法となるだろう。

規則案は従業員だけでなく、独立請負業者やインターン、ボランティアなどもカバーするものとなっている。

一方的に強制される競業避止義務

競業避止義務を擁護する人々からは、別の会社に移籍できなくなるのが嫌なら就業避止義務付きの採用の申し出を断るのは自由だし、就業避止義務を受け入れる代償としてより高い賃金を要求することも可能だと主張する。競業避止義務のおかげで雇用主は従業員の訓練に投資したり、機密情報を従業員と共有したりしやすくなるといった主張も聞かれる。従業員がすぐに辞める心配がある中では、訓練への投資や機密情報の共有は差し控えられることになるという理屈だ。

少なくとも1つの研究では、競業避止義務の適用を強めると新興企業では雇用創出の増加につながるという結果が出ているが、同研究の結論のいくつかは他の研究結果とは食い違っている。

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