アメリカ賃上げ策は「ライバル企業への転職促進」 「競業避止義務」が賃金と生産性を蝕んでいる

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FTCが提案した「競業避止義務契約」とは(写真:Stefani Reynolds/The New York Times)

賃金の引き上げと企業間競争の促進を狙う広範な取り組みの一環として、アメリカ連邦取引委員会(FTC)は1月5日、ある規制案を公表した。この規制が施行されれば、企業は従業員に対しライバル企業への転職を制限できなくなる。

FTCが提案したのは、「競業避止義務契約」として知られる雇用契約の禁止だ。競業避止義務契約とは、数カ月から数年にわたり、多くは特定のエリアにおいて、退職した従業員に競合他社に転職したり、競合するビジネスを始めたりすることを禁じる規定。サンドイッチ職人やヘアスタイリストから、医師、ソフトウェアエンジニアに至るまで幅広い職種に適用されている。

賃金停滞をもたらす悪しき雇用契約

各種研究によると、競業避止義務はアメリカの民間企業従業員のおよそ20〜45%に直接影響を及ぼしているとみられ、賃金を押し下げる要因となっている。より確実に収入アップにつながる転職を妨げるものだからである。過去数十年にわたり中間層の賃金の伸びが停滞している原因の1つとして、競業避止義務の影響を挙げる経済学者は多い。

競業避止義務が業界内の競争低下をもたらしているとする研究も存在する。大企業がこの規定を使って新興企業から身を守っているためだ。さらに、競業避止義務はニーズに最も適した人材採用の妨げとなっており、その結果、生産性が損なわれている可能性も指摘される。

FTCはリナ・カーン委員長の下で、大企業の力を抑え込むために積極的でときに型破りな施策を次々と打ち出しており、今回の規制案はそうした流れの中で登場した。

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