北朝鮮の核に対抗して韓国が核武装する可能性も 北朝鮮専門家アンドレイ・ランコフ教授インタビュー
北朝鮮側は一時的に核開発を減速させる可能性もあります。しかし、韓国もアメリカも前述したような姿勢を崩す意思はまったくみられないし、北朝鮮の指導者たちは武器開発の速度を緩める必要性をまったく感じていないのが現状です。
それゆえに、2023、2024年にわれわれが目にするのは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射や核実験、大規模なミサイル演習といったものになるでしょう。
ーー金総書記は中央委員会総会の時期に超大型放射砲の贈呈式を行ったり、その前にはICBM発射場に娘を帯同したりして視察しました。このような行動が意味することは何でしょうか。
北朝鮮は絶対君主制の国家ではありませんか。だからこそ、お姫様、とくに近いうちに後継者になるであろうお姫様を人民に向けて公開する必要があるのでは、と思います。おそらく娘はミサイルに対する好奇心が旺盛なのかもしれません。となれば、父親が訪問するオフィスや工場などに一緒に行くというのは驚くべきことではありません。
こうした行動が「4代世襲」への準備だとする考えがあります。一方で、金総書記はフェミニスト的な傾向のある人でもあります。崔善姫外相、玄松月・朝鮮労働党副部長、そして実の妹である金与正・副部長など、北朝鮮の建国以来、主要な職位に女性がこれほど多かった時代はありません。
金総書記と妻である李雪主氏との関係をみると、金総書記は妻をたんにセックスを提供して子どもを産む存在とみるよりは、自分の仕事、あるいは人生におけるパートナーと考える傾向が強いようです。こういった金総書記の傾向を考えると、金総書記は息子よりも娘を後継者にする可能性があります。
北朝鮮は家父長制の考えが強い。人民が「女性がトップに就く」という可能性を受け入れられるようにするためには、そうする前に努力する必要があるでしょう。そういった脈絡から、金総書記が娘と一緒に登場したともみることができます。
北朝鮮の非核化は達成できない
ーー先ほど、アメリカの動きについて言及されました。「対話の窓は開いている」とバイデン政権は繰り返し発言しています。
私は2022年12月にワシントンを訪れましたが、バイデン政権は朝鮮半島や北朝鮮問題に関してはほとんど関心がありません。アメリカは北朝鮮と会談しても有意義な結果が得られないと考えているようです。そのため、北朝鮮と会談することに何の情熱もありません。
アメリカの北朝鮮や東アジアの専門家の多くが、北朝鮮の非核化は達成できないことをよくわかっています。とはいえ、彼らは「北朝鮮の非核化」というスローガンを繰り返し叫ぶ必要があると考えています。それは、「非核化」を絶対条件にしなければ、世界の核不拡散体制に大きな打撃を与えることになってしまうためです。また、アメリカ国内では「非核化は必要ない」と主張する政治家は、すぐさま批判の対象となってしまいます。
ーー非核化が難しければ「管理」、すなわち北朝鮮の核兵器を管理するという言葉もあります。
核を管理すべきと考えている人もアメリカには確かにいます。しかし、「兵器管理」(arms control)という言葉を彼らは好きではありません。こういった言葉には、「相互主義で行う」ことを暗示している言葉との考えもあるためです。北朝鮮の核を管理するのであれば、アメリカの核も管理を受けるといった意味に取られる、ということです。
ーー最近、北朝鮮の核開発の進展をみて、韓国内で「核武装論」がささやかれるようになっています。アメリカの核の傘にいるよりは、自ら核兵器を開発すべきというものです。
遠くない未来に、われわれは「韓国の核問題」について多く話すことになるかもしれません。韓国の世論調査では、韓国国民の60~70%が「韓国も核開発をする必要がある」と考えています。核への反発が強い日本とはまったく異なる点です。
つい最近まで、韓国の政治エリート層は「独自の核開発は行き過ぎた冒険だ」と考えていました。当然、核開発をすべきだと主張する人もごく少数いましたが、この1年間で雰囲気が大きく変わりました。
これにはいくつかの理由がありますが、まず第1にロシアによるウクライナ侵攻は、戦争が遠い場所で起こることではないことをはっきりと示しました。それだけでなく、ウクライナに対するアメリカの支持がとても慎重なものであったため、韓国の政治エリート層から「アメリカのコミットメントに対する疑念」が生じました。
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