浜松「ガーベラ日本一」率いる脱サラ会社員の嗅覚 ここ20年で一人当たり出荷額は175%に

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農業経営に証券マン経験が一番生きたことは何かと、鈴木さんに尋ねてみた。これには、書類作成がまったく苦にならないこと、と即答。自治体の助成金も、自分たちで毎年必ず取りにいっているそうだ。

組織の仕事に個人の欲を絡めて突き進む

口を開くと、ついついぼやきか愚痴が止まらなくなる産地と生活者がまだまだ多い中、浜松PCガーベラは2つの点で特徴的だ。

まずは全員が明るく未来志向であること、そしてもうひとつが、栽培技術についてすら隠し事をしないオープンマインドだ。元証券マンの鈴木さんがゴリ押しした組織風土改革は、若手に引き継がれてさらなる進化を続けている。

「農業者は他の誰かと組むのが苦手。農業イベントでなら前に出れても、他の場じゃ全然ダメ。もったいないよね。チャンスはいくらでも転がっているのに」(鈴木さん)

「『PCガーベラは(何か頼んだときに)断らない』って思われるようにまでなれたのが最大の強みです。いまでは売り込まなくても、コラボの話があちこちから舞い込んでくるようになりましたから」(藤野さん)

言うまでもなく、メンバーの本業は高品質な切り花の生産だ。部会で決めた厳しい基準をクリアできなければ、出荷は認められない。ここだけは各々が自己責任で乗り越えるしかない。とはいえ、自分たちが望む価格で販売するためには、その価値をいろいろな人に直接伝える必要がある。かといって時間と金は足りない。

富士スピードウェイでのレースイベントに協力。写真右が鈴木さん(写真提供:浜松PCガーベラ)

あの手この手の異業種コラボの裏の狙いは、農場にお客さんが来たくなる仕掛けでもあったのだ。直近では、上智大学総合人間科学部の学生たちが話を聞かせてほしいと、わざわざ東京から訪ねてきてくれたそうだ。

2021年度の基幹的農業従事者の平均年齢は、67.9歳。これに対して浜松PCガーベラの平均年齢は46.7歳だ。東京の市場への就職が決まっていた藤野さんも、父の急逝により卒業と同時に何も知らないまま家業を継ぎ、父の代よりも安定した農業経営を実現した。

組織として次々と新たな目標を掲げ、全員一丸となり面白がってそれに挑む。そして、その姿が自分たちで生産した農作物の付加価値ともなる。もともと農作物は差別化しにくい商品である。品質以外に生産者自らが独自の価値を持たせるのは困難だが、それだけで売れていくほど甘くはない。浜松PCガーベラの取り組みは、これに対するひとつの答えでもあるのだろう。

「相場は読むものではなく作るもの」

元証券マン鈴木さんのこの言葉こそ、農業ビジネスを成功に導く思考パターンに違いない。

竹下 大学 品種ナビゲーター

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たけした だいがく / Daigaku Takeshita

1965年東京都生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、キリンビールに入社。新規事業としてゼロから花の育種プログラムを立ち上げ、プロジェクト中止の決定を乗り越えて同社アグリバイオ事業随一の高収益ビジネスモデルを確立。2004年には、All-America Selectionsが北米の園芸産業発展に貢献した育種家に贈る「ブリーダーズカップ」の初代受賞者に、ただひとり選ばれる。技術士(農業部門)。著書に『植物はヒトを操る』(毎日新聞社、いとうせいこう共著)、『東京ディズニーリゾート植物ガイド』(講談社、監修)、『日本の品種はすごい うまい植物をめぐる物語』(中央公論新社)、『野菜と果物 すごい品種図鑑』(エクスナレッジ)等。

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