「31歳NHK記者の過労死」両親がまだ納得できぬ事 調査報告書は「作られず」、沈黙する同僚たち

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――11月30日、NHKの「ラジオ深夜便」に恵美子さんが出演され、未和さんのことをお話しされました。第2の過労死を受け、NHKは自己検証に乗り出したようにも見えます。

守さん:第2の過労死公表がなければ実現はしていなかったかもしれません。ただ、深夜番組でリスナーは限られており、自己検証という意味合いではなかったと思います。

ラジオ深夜便では以前、過労死された方の遺族が出演したことがありました。それがきっかけとなって、リスナーのご家族の労災申請につながったそうです。

それで、2017年に未和の過労死が公表された後、わが家に来るようになったNHK幹部の方に「過労死を防ぐため、さまざまな遺族の思いをラジオ深夜便で伝えるようなことを検討してほしい」とお願いしてきたのです。今年7月、命日に焼香に来られた専務理事にもあらためて要望しました。

佐戸未和さんの母、恵美子さん。亡くなってから9年の月日が流れた今も、苦しみは癒えない(写真:記者撮影)

恵美子さん:遺族は本当につらい。夜は、なかなか寝付けないんです。寝付けない夜は、ラジオを聴いたりする。ラジオを聴いた、家族を亡くした方が、それをきっかけに労災申請しようと思うかもしれない。

過労死した人の中で、労災を申請して認定されるのは、ほんの氷山の一角です。普通の親は、子どもの死と過労死を結びつけることはできません。

わが家でも、未和がなぜ突然死んだのか、何が原因なのか、当初はまったくわかりませんでした。だから私がラジオに出て「社会の木鐸(ぼくたく)たるNHKですら、こういうことがあるんです」と、遺族の思いを伝えることができればと出演を決めました。

話題にするのも憚られる雰囲気

――ラジオ深夜便への出演は、NHKから要請されたわけではないのですね。未和さんが過労死認定された後も、NHKはその事実を伏せていました。当然、職員にも知らせなかった。

守さん:過労死が認定された2014年の一周忌の時にも、翌年の三周忌の時にも、未和の死が過労死であり労災が認定されていることを出席者全員にお話ししています。

NHKからも多くの人が出席されていたので、局内ではもう伝わっているだろうと思い込んでいました。しかし実際は2017年に公表されるまで、多くのNHK職員が未和の過労死を知りませんでした。

恵美子さん:私は未和を失ったショックで心を病みしばらく入院していましたが、退院後の2017年春から「東京過労死を考える会」の一員として活動や集会に参加し始めました。

ある集会に参加した時、会場にNHKの記者やカメラマンが来ていたので、私は「佐戸未和の母です」と声をかけてみたんですね。すると皆、ポカンとしている。

そんなことが頻発し、未和の過労死は局内でほとんど伝わっていないんだと気づきました。厚労省審議会の傍聴席で出会った労働問題専門のNHK解説委員でさえ、未和の過労死のことを把握していませんでした。

未和と親交のあったNHKの若い職員の方々に尋ねてみたところ、未和のことは局内では何も知らされておらず、話題にするのも憚られるような雰囲気だというのです。

このままでは未和の過労死が隠されてしまう、未和のことが葬り去られてしまうのではないか、そんな恐怖にかられました。

守さん:未和が記者としてNHKで一生懸命に働き、そして過労死してしまった事実を、NHKの全職員に知ってほしい、それが労災認定以来、一貫して変わらない私たちの思いです。

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