「31歳NHK記者の過労死」両親がまだ納得できぬ事 調査報告書は「作られず」、沈黙する同僚たち

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

――NHKは「遺族が公表を望んでいない」という理由で、しばらく公表しませんでした。

守さん:まず知ってほしいのは、私たちは未和の過労死について「公表しない」などとは一言も口にしていないということです。

2014年に過労死認定を受けたあと、担当弁護士から記者会見をするかどうかを問われた際、辞退したのは事実です。当時、家内の憔悴ぶりがひどく、自殺しかねない状況だったからです。とても記者会見を開ける精神状態ではありませんでしたし、記者会見を開かなければ公表する意思がないとみなされるとは思いもしませんでした。

NHKは公表しなかった理由を、私たちの代理人弁護士が「遺族は公表を望んでいない」と言っていたからだと主張しました。記者会見は開かないという代理人弁護士の説明を、NHKは自分たちにとって都合よく解釈し、利用したのではないでしょうか。

佐戸さんの両親である佐戸守さん(写真左)と恵美子さん(同右)(写真:記者撮影)

未和が亡くなってから公表までのNHKの対応は、今思い出しても、本当に冷淡でした。1年に1回だけ、命日のときに幹部が焼香に来ましたが、それ以外は没交渉で、遺族に寄り添おうとする意思を感じたことは一度もありません。

2017年は7月の命日直前になってもNHK側から来訪の連絡はありませんでした。「これは忘れているな」と許せない気持ちになり、弁護士を通じてNHKに連絡を入れたのです。

すると着任したばかりの首都圏報道センター長が飛んで来たので、こう伝えました。「未和の過労死が局内でどう扱われているのかを調べて、すべての職員に事実を周知してほしい」と。

1カ月後、これから局内への周知徹底に取り組んでいくとの返答がありました。そして周知をしていく過程で外部にも漏れていくから公表をしたいとも。私たちには異存ありませんでした。

2分ちょっと流しただけ

――そこからNHKが公表に向けて動き出したわけですね。

守さん:9月26日に報道局幹部の研修会に招かれ、未和を過労死で失った親の思いを話しました。この日、初めて理事の口から「誠に申し訳ありませんでした」「NHKとして非常に重く受け止めています」という謝罪の言葉が出ました。

その後、公表に向けて話し合いを始めましたが、公表内容について最終的な合意に至らないまま、他のメディアから未和の過労死について取材要請が入ったことを受け、NHKは急遽10月4日夜9時からの「ニュースウォッチ9」で未和の過労死を公表することになりました。

恵美子さん:公表したといっても、首都圏放送センターに勤務していた未和が過労死で亡くなったという事実を2分ちょっと流した程度です。その日のニュースの8番目の扱いでした。

私たちは、公表するなら未和がどんな記者だったのか、どんな思いで仕事をしてきたのか、未和の人となりをちゃんと伝えてほしい、と要望していました。編成局の部長の方は「僕らはプロの集団だからプロに任せてください」と言っていたのですが、あまりにも短く、私たちが望んでいた形とはかけ離れていました。

守さん:事実関係も異なっていました。「ニュースウォッチ9」ではNHKが遺族へ謝罪した、と説明していましたが、先に述べた通り、謝罪を受けたのは死後4年も経ってからですよ。

過労死認定から公表されるまで、毎年命日に焼香をしにわが家を訪れていたのは役員でもない首都圏センター長です。持参の書面でも、口頭でも「お悔やみ申し上げます」という文言だけで、謝罪の言葉はありませんでした。NHK任せの公表では、NHKの好きなようにやられてしまうと「ニュースウォッチ9」を見て、確信しました。

たしかな事実と、私たちの思いをきちんと伝えるために、2017年10月13日、記者会見を開いて事実関係と私たちの思いを丁寧に話すことにしたのです。

次ページ親しい同僚ですら口をつぐんでいる
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事