鹿児島県民から愛される「フェリーうどん」の正体 ソウルフード「やぶ金のうどん」の凄い歴史

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桜島フェリーでの営業は好調で、多くの利用者から愛されるようになる。今は室内だが、昔は甲板で提供していた。 

「風がある日はお客様が出した千円札、一万円札が飛ぶんですよ。だから、重しを置いてもらうようにしていたんですけど、それでも置き忘れて飛んでしまうことがあって……。錦江湾はそれなりにお札が沈んでると思います」 

移動時間は15分。限られた時間で提供するために、オペレーションや提供方法を工夫した。 

麺は長めに湯がいて下ごしらえをしておき、現場では短い湯がき時間で提供できるようにしている。また、オペレーションでも工夫がある。列の1人目のお客様の注文が決まってなかったり、迷っていたりすることがあるため、「お決まりの方からどうぞ」と声がけをすることだ。注文が決まっていて、かつ並びの早い順に対応していくのだ。 

といっても、実は15分よりも時間はある。 

「海の上を移動しているのは15分ですが、フェリーが港に泊まっている時間も含めると40分くらいあります。早めに乗り込んじゃえば余裕があります。動くまでの10分くらいの間に食べ終わっている方もいます。常連のお客様で毎回必ず3杯食べる方もいらっしゃいました」 

ただし車での乗船の場合、降りる際に早めに車内に戻らないといけないため、さほど時間に余裕がない。そのため、車で乗船したお客様には、声がけをして注意を促すこともあるそうだ。 

フェリー乗り場の様子(筆者撮影) 

噴火やナイトクルーズと一緒に楽しむうどん

代表取締役社長・新徳慎さんは、東京で勤めたのち帰郷して17年前から家業に携わるように。桜島フェリー店での店長を2年務めた。

「日常的な通勤・通学で乗っている人もいれば、観光で来ている人もいらっしゃる。驚いたのは、灰に対する反応です。地元民からすると灰が降ると嫌ですよね。ザラザラするし。でも桜島が噴火しているのを見て、外国人観光客の方が喜んで灰をかぶっているのを見てなんだか新鮮な気持ちになりました」

まるで初めて雪を見た子どものように無邪気に喜ぶ様子に、地元民にとっての日常がこんなに感動されるのかと面白く感じたという。鹿児島の日常が、観光客の視点を通すことで、フェリーの上からはまた違って見えてくる。

桜島。もくもくと噴煙をあげるこの姿は、鹿児島県民にとっての日常風景だ(筆者撮影)

天文館で働く人たちが、夜にうどんを食べるためにフェリーに乗ることもあるという。コロナ禍で営業時間が短くなったが、以前は深夜便(24時間運航)まで営業していた。仕事終わりにフェリーに乗って、うどんを食べて、夜風にあたり、海の上から夜景を見て、また戻るといったことを楽しむ人もいたのだ。ちょっとしたナイトクルーズだ。 

「桜島側から見る市街地の夜景は結構味がありますよね。贅沢な時間になるでしょうね。往復で400円の運賃もプラスされて900円とか1000円くらいのうどんになりますが、そういう常連さんからも支えていただいてありがたいです」 

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