鹿児島県民から愛される「フェリーうどん」の正体 ソウルフード「やぶ金のうどん」の凄い歴史

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うどん
かけうどんは一杯500円という庶民価格(筆者撮影)

「やぶ金」のうどんのおいしさは出汁にある。透き通った出汁は、優しい甘さがありながら後味はすっきりしている。カツオ節やさまざまな削り節のコクと風味が奥深く、最後まで飲み干したくなる味だ。おにぎりやいなりを合わせて頼み、出汁を飲みながら食べるのが最高の組み合わせだ。

基本的な味は創業から変わらず、特に出汁に関しては一切妥協しない姿勢だ。

「うちのうどんは、返しにみりんを一切使わないのが特徴です。代わりに東酒造の高砂の峰という地酒を使っています。口に甘さが残らない、すっきりした後味に仕上がります。もちろん地酒なのでやはり材料代はかかりますが、創業時からのこだわりの味は妥協せず引き継いでいかないといけないですね」

出汁は日高産昆布の特級に、カツオ節やサバ節など6種類の削り節を使って引いている。しっかりとコクがあり奥深い旨味が生まれる。一番出汁はうどんのつゆに使うが、二番出汁は天ぷらを揚げる時に衣に混ぜている。麺も自家製麺。つるんとした喉越しがいい。

窓際の席に座れば、近づいてくる桜島の風景を見ながらうどんが食べられる(筆者撮影)

桜島フェリーのうどんはいつから? 

「やぶ金」は「山形屋店」「天文館店」「桜島フェリー店」の直営店3店舗が県内で展開しているほか、フランチャイズ店が2店舗ある。 

創業は昭和27年に遡る。山形屋(※鹿児島の老舗百貨店)バスターミナルの正面で営業を始めた店はいわゆる大衆食堂の走りのような店で、うどんとそばに天丼、寿司なども提供していた。当時は山形屋に買い物に行って、やぶ金で食事をして帰るのが定番コースだったという。味が評判を呼び、時代の波に乗って商売は繁盛していった。 

「今はフェリーのうどんのイメージが強いですが、昔からの70~80代の常連様はそちらの店のイメージが強いかと思います」 

桜島フェリーでの提供が始まるのは、創業から29年を経た昭和56年だ。当時常務だった慎さんの父・新徳國公さん(現会長)が「桜島フェリーでうどんを提供したい」と発案して始まった。きっかけは、東京や大阪、福岡に出張に行ったときに見た立ち食いそば。「あの文化を鹿児島にも持ってこられないか」と考えた。 

しかし、社内では「15分なんて短い時間で誰がうどんを食べるの?」と反対の嵐だったという。本店が繁盛して軌道に乗っていたので、不安要素のある挑戦に対しては懐疑的だった。 

そこで、國公さんは桜島フェリーでの乗船を待つ車向けにうどんの販売をしてみる。すると反響がよく「この商売はいける」と判断して会社を説得した。桜島町長(※桜島町は市町村合併で現在は鹿児島市)の所へ行き、桜島フェリーで店をやらせてくださいと直談判をして始まった。 

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