鹿児島県民から愛される「フェリーうどん」の正体 ソウルフード「やぶ金のうどん」の凄い歴史

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通勤・通学といった日常的なインフラとしてフェリーに乗る人もいれば、観光やちょっとした息抜きに乗る人もいる。桜島フェリーは鹿児島の日常と非日常が交差する不思議な場所だ。それを彩ってくれるのは雄大な桜島の景色とやぶ金のうどん。 

「思い出の味を求めて30年ぶりくらいにうどんを食べにいらっしゃったお客様に会ったこともありました。そういうお客様に対してすみません、売り切れましたって言えないですよね。ちゃんと提供できてよかった。気が引き締まる思いがしました」 

桜島フェリーの運航に合わせて営業しているので、基本的に年中無休だ。一番うどんが売れるのは8月のお盆。GWや年末年始、春休みにも人気で、帰省シーズンに売れ行きがよくなる傾向がある。それに合わせて仕込みの量を調整して、しっかり届くようにしている。 

ただし、船の上でやっているので、天候や故障といった桜島フェリーの運航状況で急遽営業ができなくなることがある。特に台風シーズンは運休になる可能性が高い。何年かに1回あるかないかだが、フェリーが鹿児島港を出て桜島港に着いたタイミングで船舶局から運航停止の連絡が来ることもある。従業員は桜島から戻ってこられなくなるので、ホテル代を出して泊まってもらうか、車で迎えに行くこともあるという。 

感謝祭では1日で4858杯の売上 

2023年の今年でサービス開始から42年。30周年を迎えた2011年にはお客様への感謝を込めて「誕生祭」を行い、かけうどん、かけそばを1杯200円で提供した。1日で4858杯を売り上げたという。 

「うちのフェリーのスタッフは本当に職人ですよ。メニュー料金も何と何を組み合わせるといくら、の組み合わせが全部頭に入っています。片道で80杯近く作ることもあります」 

繁忙期でも店長1人で店を切り盛りする。2人体制にすることはないそうだ。検討したこともあったが、1人での対応に慣れているため、他の人が入るとリズムが崩れてうまくいかないのだそう。 

コロナ禍での利用者減や燃料費高騰を受け、経費削減のため2023年の4月以降に桜島フェリーは減便して現在の5隻体制から4隻体制になる。平日は16便減の102便となり、土日祝日は18便減の112便になる。「県民の足」としての24時間運航は変わらないが、それでも地域インフラを取り巻く状況は今の世相や経済状況を反映して少しずつ変わっている。 

「やぶ金」ではコロナ禍での需要などを受けて、テイクアウトメニュー開発に注力中。今年はECサイトをオープンさせる予定だ。家でもあの出汁が味わえるようになる。 

でも、ぜひ一度は桜島フェリーに食べに行ってみてほしい。船旅がうどんを唯一無二の体験にしてくれる。そして、昼、夕暮れ時、夜と、時間帯によって異なる魅力がある。晴れた日、くっきりと見える桜島の姿が近づいてくる様子は最高にワクワクするし、海の上から見る夕暮れの風景は独特の情緒がある。運がよければ錦江湾をおよぐイルカに出会える。静かな闇夜に見る市街地の灯りもいい。海の上から見る鹿児島の風景は、うどんをより一層おいしく特別なものにしてくれるだろう。

横田 ちえ ライター

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よこた ちえ / Chie Yokota

鹿児島在住。WEB・雑誌での執筆のほか、企業のオウンドメディア運営やパンフレット製作など幅広く活動。日ごろから九州を中心に全国あちこちを巡り、取材テーマを模索している。最近特に力を入れているテーマは離島や温泉。

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