昭和生まれのための「紅白歌合戦」10倍楽しむ見方 今年の「紅白歌合戦」は"近年最高"かもしれない

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それから彼の歌を聴くようになったが、美しい日本語の歌詞を歌っているので、じゅうぶん中高年層にも聴きやすい。今年10月に発売された『grace』のサビも、〈あなたに会えてよかった〉ではなく〈あたしに会えてよかった〉とした歌詞が印象的だ。どこか懐かしい言葉が散らばっていながら、新しい国の言語で歌っている感じもある不思議。

2020年に発表したデビューアルバム『HELP EVER HURT NEVER』に収録された『死ぬのがいいわ』も「愛に命をかける」昭和歌謡の趣を持ちつつ、香る異国フレイバー……。この曲が今年の夏、タイのSpotifyバイラルチャートから火がつき、世界的ヒットになったというのも面白い。

そんな、聴いていて深堀したくなる歌謡曲的な要素が散らばっていながら、どこか新しい国の言語で歌っている感じもある不思議。柔らかき“道場破り”というか、音楽でいろんなボーダーを取り払っているかのような人だ。勝手なイメージを書くと、ゴダイゴ布施明に令和の空気を添えて竜巻を起こした感じである。

今年はてっきりNHKの雰囲気的に『grace』を歌うと思っていたが、『死ぬのがいいわ』を歌唱すると発表されビックリ。さすが一筋縄ではいかない、“令和の突風”である。

同じくボーダーの破壊、新しい風、という意味で注目しているのが、今年2回目の出場となる「King Gnu(キングヌー)」。2019年リリースの『白日』は、“喪失と再生”を自問自答する、とびきり個人的な讃美歌を聴いている感覚になった。

彼らの歌は希望や絶望、罪悪感といった不変のテーマを描いているが、メロディの複雑さは新時代。上がったり下がったりの音符に思いがぎっしりと埋め込まれている。

純文学のページをすごい勢いでめくっているような“読書気分”にもなり、なぜか「猛烈にすごく分厚いハードカバーの小説を読みたい!」と活字欲までそそられる! なんというか、新しさと古典的な感じの混ざり方がすごくて、複雑な音楽でもじっと耳を傾けていられる。今年も楽しみだ。

80代の母も「ヒゲダン」の歌声に感動

King Gnuと同じく2019年に初登場を果たし、今年2年ぶりに紅白出場するのが「Official髭男dism(オフィシャル・ヒゲ・ダンディズム)」。彼らの歌声は、私のような昭和生まれがどこか懐かしさを感じる、王道の継承者のような風格を感じる。

2019年の初出場の際、歌唱した『Pretender』の〈君はキレイだ〉というサビを聴いたとき、50代の私はもちろん、「最近の音楽は速くて難しくてわからない」と反応するようになった80代の母が「いいわね。きれいねえ」と聴き入っていたのも、とても印象的だった。

今年はドラマ『silent』の主題歌『subtitle』が大ヒット。この、心にすっと入ってくる澄んだ声と安心感。私はこの心地よさ、昔に体験したことがある……と思い出して思い出して必死に思い出すと、記憶の蓋が開き、原田真二がひょっこり出てきた。

「ああ、私この手の声好きなんだなあ」。あくまで私の印象ではあるが、自分の“好き”を遡って思い出し、丸ごともう一度好きになる。この体験は、本当に嬉しいものである。

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