東京23区タクシー運賃「15年ぶり」値上げの実態 初乗り420円→500円、運転手採用増に期待も

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日本交通の担当者も「海外の手続きを見ると、ロンドンなどはその時々の事業環境を見てもっと短いスパンで運賃改定がされている。日本でも柔軟な手続きのやり方が議論されてもいいと思う」と語る。

そんな中、12月12日にタクシー運賃の審査基準の一部が変更になった。今後は運賃改定要請が出されてから3カ月間の受付期間の途中であっても、申請数が7割に達した時点で次の手続きに進めるようになった。これにより、運賃改定手続きの迅速化が期待される。

運賃改定で運転手を呼び込めるか

タクシー業界は慢性的な人手不足に苦しんでいたが、それがコロナ禍で加速した。コロナ禍が直撃した2020年度のタクシー業界全体の運転手数は2019年度に比べ1割減の24万人強となった。2010年度と比べると、4割近くも減ったことになる。

国際自動車も辛酸を嘗めてきた。利用客の減少を背景に、コロナ禍前は約500万円だった運転手の平均年収が2割減の約400万円にまで落ち込んだ。感染に対する恐怖や待遇の悪化で離職者が増え、運転手の数は約600人の純減となった。毎月50人を採用しても、それ以上に人材が流出してしまう状況だったという。

今年に入り、行動制限が緩和されたことで客足は回復しつつある。運転手の数が減ったままのため、時間帯によっては需要を捌ききれないという「機会損失」も発生しているほどだ。結果として、運転手1人あたりの営業件数は増加し、2022年4月には年収がコロナ禍前の水準にまで戻った。

松本常務は「運賃改定によって運転手の収入が増えることは、求職者の就職意欲を引き立てるだろう」と大きな期待を抱く。足元の状況を見ると、「運転手の月給は平均で7~8万円ほど上がるのではないか」(同)。

賃金水準の回復をテコに、各社は運転手の採用を増やす考え。これまで主流だった中途採用に加え、新卒採用にも軸足を置く(『就活生が「タクシー運転手」に新卒カード切る理由』参照)。今回の運賃改定を機に「タクシー運転手」をどれだけ「魅力的な職業」にできるか、各社は今が正念場だ。

村松 魁理 東洋経済 記者

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むらまつ かいり / Kairi Muramatsu

自動車業界、工作機械・ロボット業界を担当。大学では金融工学を学ぶ。趣味は読書とランニング。パンクロックとバスケットボールが好き。東京都出身。

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