高山登山者は「脳の腫れ」に注意すべき医学的理由 命を脅かす「高地脳浮腫」を発症することも

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脳の仕組みについて解説します(写真:NISH/PIXTA)
北極圏、ネパール高地、アメリカ先住民居留地など世界各地で医療活動をおこなってきた現役医師のジョナサン・ライスマン氏は「体内の器官を理解するには、自然の生態系への深い知識が必要」と指摘します。『未知なる人体への旅 自然界と体の不思議な関係』の著者であるライスマン氏が、今回は「脳の仕組み」について、自然界を通して得た豊かな知識と洞察をもとに解説します。

海抜から高くなればなるほど「脳は腫れる」

ヒマラヤの高地では、頭痛はただの頭痛ではない。人体がその土地に適応していないしるしだ。高山病はどの臓器よりも脳に深刻な影響を与える。

脳の機能はもっとも先進的な神経科学の研究でも、ほとんど解明されていない。人間がその中に住んでいるというのに、脳はいまだにブラックボックスだ。この臓器の中で、どのように意識が作り出されるのかははっきりわかっていないし、どこで脳が終わり、どこで精神が始まるのか、その正確な地点についてはいまだに研究途上だ。1つわかっているのは、海抜から高くなればなるほど脳は腫れるということだ。

エベレストがビルで海抜ゼロが1階だとしたら、その頂上は2900階になる。1階からエレベーターに乗ったら、途中で耳がジンジン痛くなるのに加え、おそらく生涯最悪の二日酔いの症状になるだろう。ズキズキする頭痛、吐き気、倦怠感は、最も軽い高山病である急性高山病(AMS)の典型的な症状だ。

高度がより上がるともっと具合が悪くなり、脳の腫れが命を脅かすほどになる高地脳浮腫(HACE)を発症することもある。高山病で命を落とすのは、ほとんどがHACEのためだ。

高地で肺に水がたまることもあるが、ヒマラヤのような高い山を登るときに経験する大半の症状は、脳に影響を受けるからだ。標高が高くなると、どうして脳の生理機能にこのような不快で、死にいたりかねない変化が起きるのかはいまだに謎だ。未知のメカニズムと、気圧と酸素濃度の低い薄い空気で、脳内の血管から体液が漏れるのだ。

とりわけ脳の場合、ほかの臓器とはちがい、ちょっとした腫れも大きな問題を引き起こす。

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