「よっしゃ、一発かましたるでー」
オーディション会場は、心斎橋二丁目劇場の四階にある会議室みたいな殺風景な部屋でした。なにしろ大変な人気番組だったので、一〇〇組近い素人がオーディションを受けに集まっていました。
やがて、僕の番がやってきました。
僕は三人の審査員の前で、得意のF1ネタ(唇の振動でF1の走行音をリアルに再現する)を一発目にかまし、オッヒョッヒョで繋ぎながら、ショートネタを立て続けに四本ぐらいやりました。すると、これがけっこうウケたのです。
ダウンタウンが目の前に
そして、まさかとは思っていましたが、三日後に『4時ですよ~だ』のディレクターさんから家に電話がかかってきたのです。
「オオシロ君、本番来てくれる?」
正直言って、ビックリしました。
僕は、尼崎にあるダウンタウンの松本人志さんの実家まで訪ねていって、表札に松本さんの名前があるのを見て泣きそうになったぐらい、ダウンタウンさんが好きでした。その、天才と崇(あが)めていたダウンタウンさんと同じステージに、一緒に立つことができるのです。
「はい、もちろん行きます!」
それは、一九八九年の秋のことでした。
午後三時からリハーサルが始まるというので、僕は学校を早退させてもらって阪急電車に飛び乗ると、まっしぐらに心斎橋二丁目劇場に向かいました。電話をもらってから本番までの五日間は、もうTのこともいじめのこともどうでもよくなって、ひたすらネタの練習を繰り返しました。
ドキドキしながら壁じゅうにファンの落書きがしてある劇場の中に入り、リハーサルで段取りをつけてもらうと、ディレクターさんが言いました。
「よっしゃ、本番まで休憩や」
その時です、なんと舞台袖から松本人志さんが現れたのです。
「ほっ、本物の松本人志や!」
僕は心の中で叫びました。
なにしろ夕方四時台の番組で二〇%近い視聴率を叩き出していたのですから、ダウンタウンさんの人気は本当にすごかったのです。その天才松本人志と、僕はいままさに同じ舞台に立っているのです!
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