「グローバル化(の流れ)はほぼ消えた。自由貿易も風前の灯だ。多くの人々が元に戻ることを望んでいるが、短期的には無理だろう」――。
半導体の受託製造(ファウンドリー)世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の創業者として知られる張忠謀(モリス・チャン)氏が、そんな悲観的な心境を吐露した。12月6日、同社がアメリカのアリゾナ州に建設している新工場の設備搬入式典で、挨拶に立った時のことだ。
TSMCは2020年5月にアリゾナ州への進出を発表。プロジェクトの第1期では、120億ドル(約1兆6407億円)を投じて回線幅5nm(ナノメートル)の生産ラインを建設しており、2024年の稼働を目指している。
今回の式典の直前には、アリゾナ工場の第2期プロジェクトに着手すると発表した。より高度な3nmの生産ラインを導入し、稼働は2026年を見込む。その結果、第1期と第2期を合わせたTSMCの総投資額は400億ドル(約5兆4691億円)に達する。
現在91歳の張氏はスピーチのなかで、TSMCがすでにアメリカで600人のエンジニアを採用し、台湾に派遣して期間1年~1年半の技術研修プログラムを実施していると述べた。さらに、ほぼ同数の台湾人エンジニアが(アリゾナ派遣に備えた)研修を受けていることも明らかにした。
「米政府の要請を受けた決断」
近年、半導体産業のグローバルな経営環境は大きな変化に直面している。貿易や先端技術をめぐるアメリカと中国の紛争がエスカレートするなか、追い打ちをかけるように世界的な半導体不足が発生。アメリカ政府は(国家安全保障の観点から)半導体チップの生産拠点をアメリカ本土に確保することの重要性を強調するようになった。
そんななか、生産規模でも技術力でも世界をリードするTSMCが、アメリカ政府の優先的な誘致対象となったことは疑念の余地がない。
「アリゾナ進出の意思決定は、アメリカ政府の要請を受けて下した。(同時に)TSMCとしても、アメリカに工場を建設すべきだと判断した」。張氏は2022年4月にアメリカのブルッキングス研究所で講演した際、そう述べている。
アメリカ政府の期待を映すかのように、12月6日の式典には大物の来賓が多数駆けつけた。そのなかにはジョー・バイデン大統領、ジーナ・レモンド商務長官、アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOなどが含まれている。
(財新記者:翟少輝)
※原文の配信は12月9日
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