尾上右近、歌舞伎の型は「落とし穴でもある」訳 創造性の欠如に気づいた演出家の印象的な言葉

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── 具体的にはどういうことでしょう?

右近:忘れられないのは、初めて出た新劇の立ち稽古で、演出家の方に「動いてみて」と言われた時。「動いてみてってなんだろう、どうしたらいいんだろう」と固まってしまいました。歌舞伎にはそういうことがないんです。客席にお尻を向ける芝居は絶対ありません。だから、動いてと言われたら横歩きしかできなくて(笑)。漫才をやっているみたいになってしまうんです。

型での表現の仕方は勉強して来たからわかるのです。でも、どうしてそういう表現をするかということに対しての理解の時間がないないまま来たということは、外に出て気が付きました。だから、僕はすごく燃費が悪いというか、たどり着くまでにめちゃめちゃ時間かかります。

ジャケット2万6400円、パンツ1万7380円/ともにINTERPLAY(Connector Tokyo)、その他スタイリスト私物(写真:内田裕介(Ucci))

実は僕、ネクラです。松也さんとはネクラブラザーズです(笑)

── 同門の尾上松也さんもさまざまな場でご活躍されていますね。

右近:松也さんも自分の状況を打開するために色々な仕事をしてきて、凄く孤独だったらしいのです。違うジャンルに入っていくこと自体が難しかったと。だから僕がやり始めた時は、気持ちを分かち合える同志ができたみたいな感じでとても喜んでくれました。松也さんも僕もネクラ、僕らネクラブラザーズなんです(笑)。

── え⁉ そうなんですか? とても明るい方だと思っていました。

右近:いえ、凄く考えちゃうタイプです。落ち込んでいる時には一緒にお風呂に入りながら、一点を見つめて長々と喋ります(笑)。「あ〜もういいんじゃないかな、そんなに頑張らなくても」とか言いながら。本当に小さい時からそういう関係です。

── たくさんの苦労がありながらも外部の仕事をし続けるのはなぜですか?

右近:単純にできないことがあるのが嫌だなと。あとは将来、後輩とかに教えることも出てくると思うんです。その時に、いろんな教え方ができる方がいいかなと思って。いろんな経験をすれば、相手に合わせて多方向からアプローチが出来るかもしれない。そういう力を習得したいという気持ちは強いです。外部の舞台に出て気づいたことは、歌舞伎は過酷だということ。それは間違いなく言える。それでもなぜやるかといえば、好きだからです。

── これからの歌舞伎を盛り上げるために具体的に考えていることはありますか。

右近:将来のことも考えると、今まで続いてきたものを大事にするなら、このまま継承するだけではダメなのではないか、何かをしなければとは思っています。歌舞伎の発展のためには、お客さんがたくさん入って、人気があると思われて、歌舞伎の世界に入りたいと思う若手を増やさなければいけない。

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