尾上右近、歌舞伎の型は「落とし穴でもある」訳 創造性の欠如に気づいた演出家の印象的な言葉
── スサノオと言えばヤマタノオロチ退治ですが、今回の舞台は大蛇(おろち)として出演する「石見神楽(MASUDA カグラボ)」を東京で見られる滅多にない機会だとか。
右近:そうなんです。僕も生で見るのは初めてですが、迫力は凄いですよ。土着的なエンタテインメントというところが最大の魅力だと思うし、僕もいいエネルギーをいただけそうだと思っています。でも、申し訳ないけどやっつけます(笑)。
── スサノオですものね(笑)。そのスサノオ役、右近さんはどのように捉えていますか。
右近:男そのものじゃないですか。手に負えない暴れん坊みたいなところもあるけれど、ヒーローでもあり。それが神様だというところに何か超越した説得力があるし、男の憧れみたいなものを感じます。いわゆる荒御魂(あらみたま)という荒々らしい神様なので、その描写を歌舞伎の「荒事」という、隈取りをして誇張した衣裳を着て体を躍動させるような表現を使って見せていくことになりそうです。
── 装束も見どころのひとつですね。資料に基づいて研究のために再現された本物の衣裳が使用されるとか。
右近:凄く煌びやかですよね。スサノオが隈取りをするシーンでは、装束の中でも、歌舞伎のテイストのものをご用意していただける予定だとのことで、僕も楽しみです。
ときには空気を読み、ときには空気を読まず、すべてをかき混ぜたい
── ところで右近さんは日本神話には興味がありますか。
右近:印象深いのは「ヤマトタケル」です。いわゆる神話って、ヒーローは英雄的なことしか言わず、悪はどこまでも悪で、女はどこまでも美しくと、シンプルに勧善懲悪を描いたものが多いのですが、「ヤマトタケル」の場合、ヒーローが迷いを言葉にしたり、敵役が真理を言ったりというシーンがあるのです。
スーパー歌舞伎で上演されましたが、そこに目をつけたところは凄いなと思いました。歌舞伎では英雄が悩みを吐露するとか、敵役がすごく良いこと言う演目はまずないんです。勧善懲悪の中に多面性を持ち込む。「古いが新しい」と感じるものでした。
── なるほど。今回の舞台も普通の歌舞伎とは大分違うものになりそうですが。
右近:僕も歌舞伎以外のジャンルに飛び込んでいく経験は今までもありますが、これだけ多ジャンルにわたった人たちが一堂に会してというのは滅多にありません。なので、僕としてはいい意味でかき混ぜていきたいなと。ときには空気を読み、ときには空気を読まず、すべてをかき混ぜて引きずり回すような、躍動したスサノオを目指したいです。