出社を頑なに拒む社員「在宅勤務」は認められるか さまざまなケースにどう会社は対応すべきか

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人事担当者も私も「会社が出社を求めてもできない状態であれば、それに適した診断書を提出して休職すること」を繰り返し説明しました。しかし、彼女は「家では仕事はできているから診断書を提出するような病気ではない」と訴えました。結局ほかのチームメンバーが出社する中、彼女には在宅対応可能な業務のみが与えられました。

このように「在宅勤務は社員の権利」と主張する社員と、「出社勤務は社員の義務」と主張する会社側で意見がわれるケースがあります。

実際在宅勤務を希望する人に、会社は在宅勤務を許可しなければならないのでしょうか。

オランダ下院では、今年7月に在宅勤務を法的権利として認める法案が可決されました。オランダ議会は二院制のため、法案成立のためにはさらに上院での承認も必要ですが、今後、従業員が在宅勤務を希望した場合、職務上可能な限り検討することが会社側に義務付けられます。法制化されれば、在宅勤務は従業員の権利になると思われます。

しかし日本では、まだ法的に在宅勤務が従業員の権利として認められていません。働く場所を決めることは「会社の権利」なので、会社が出社を求めた場合、社員は原則、出社しなければなりません。

在宅勤務はあくまでもオプション

在宅勤務はあくまでも、通常勤務ができる人、すなわち出社勤務ができる人への会社のオプション(福利厚生の一部)だと私は考えます。

つまり、在宅でも業務ができるか否かの問題ではなく、会社が求める場所で業務ができるか否かという単純な話なのです。そして、産業医は、あくまで会社の求める通常勤務(出社勤務)ができるか否かに対する意見を述べるのみです。実際、産業医として「必ず在宅勤務でなければならない」と言うほどではない場合、会社の最終的な判断も同じことが多いです。

もちろん健康上の理由で会社の求める勤務ができないのであれば、その社員は病気治療のための休職を取得し、治療に専念すべきだと考えます。そのためには医療機関の発行する診断書が必要ですし、休職中は懸念する健康問題の治療に真摯に努めていただきたいと思います。

武神 健之 医師、医学博士、日本医師会認定産業医、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事

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たけがみ けんじ / Kenji Takegami

ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、アウディジャパン、BMWジャパン、テンプル大学日本校、アプラス、アドビージャパン、Wework Japanといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に『メンタルが強い人の習慣』や『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』などがある。

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