「ソ連崩壊」を1980年に予言していた本の凄い中身 小室直樹はソ連軍をどう分析していたのか

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ゴルバチョフ大統領辞任を受け、降ろされたソ連国旗の代わりにロシア国旗が掲げられるのを見物する市民(ソ連・モスクワ)(写真:AFP=時事)

ソビエト連邦の崩壊を10年以上前に予言した小室直樹氏の『ソビエト帝国の崩壊』。光文社の新書レーベル「カッパ・ビジネス」から1980年に刊行され、40万部超のベストセラーとなりました。2022年はソ連建国100周年であり、ウクライナ侵攻で揺れるロシアを考えるうえでも、その価値はいまだ失われていません。同書を復刊した『ソビエト帝国の崩壊 瀕死のクマが世界であがく』(光文社未来ライブラリー)より一部抜粋してお届けします。

※本文中の一部に偏見や差別を助長するような比喩などがありますが、本作が成立した当時の時代背景、および作者がすでに故人であることを考慮したうえで底本のままとされています。同書から抜粋したこの記事も、差別の助長を意図するものではありません。

ソ連軍は巨大な国鉄である

ソ連は、今や、経済も社会もイデオロギーも、すっかりあがったりになってしまった。しかし、そのソ連で文句なしに立派なのが軍隊だ。共産主義ソ連はどこかにいってしまって、軍国ソ連が誕生した。

男の子が17歳になると、徴兵事務所に届けでる。1年たつと、赤紙ならぬ1枚の葉書がまいこんできて、定められた徴兵検査場に出頭しなければならない。これを怠ると懲役10年だ。空軍、海軍、戦略ロケット軍に配属されるのが、優秀とされた人びとだ。

ソ連においては、いまだに第二次大戦の傷跡は深く、母国を救った赤軍を、ソ連人は心から誇りに思っている。だから、そこに入隊することは、男の子にとって、これほど名誉なことはない。

入隊すると、そまつなバラックにつめこまれて、さんざんしごかれる。訓練のほうが実際の戦闘よりきつい、というくらいだ。この点、ぐうたらなアメリカ兵など問題にならない。

ソ連軍の中核となっているのが、40万人の将校と100万人の下士官である。士気も高く、待遇もいい。給料は10年勤務の軍曹で月600ルーブル、これは高校教師とほぼ同じだ。中尉ともなると、その倍になる。大佐ともなると、大会社の社長なみだ。社会的地位も高く、医師や弁護士よりも上だ。これほど優遇された軍隊は、帝政ドイツのプロイセン将校、戦前の日本軍くらいのものだろう。

この章では、ソ連の誇りであり、また世界各国から脅威とされている、ソ連軍について考えてみることにする。

さて、軍隊は組織である。組織されていない軍隊なんて、なんの役にもたたない。ところが、この組織というものがまた、しまつの悪いものなのだ。

このことは、われわれは、いやというほど見知っている。たとえば、国鉄(現・JR各社)である。国鉄は運送業である。国鉄の組織は、この目的のために存在し、それ以外にはない。ところが、国鉄の組織がひとたびつくりあげられてしまうと、それは、運送という目的だけのために存在するのではなくなってしまう。組織そのものが自己目的化し、その構造的要請、機能的要請のために組織が動くようになる。そして、その結果、運送業という本来の目的と矛盾するような行動でも平気でするようになる。

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