「ソ連崩壊」を1980年に予言していた本の凄い中身 小室直樹はソ連軍をどう分析していたのか
これらの諸事件には、時期も国際環境も著しく異なるにもかかわらず、注目すべき共通点がある。
すなわち、
(1)軍事行動においては、抜く手も見せぬ早業と集中投入方式であって、スエズの英仏軍や、ベトナムのアメリカ軍のような、兵力の逐次投入の愚を犯していない。
(2)それでいて、国際政局、イデオロギー、ナショナリズム等の政治的、社会的要因に対する配慮はきわめてとぼしく、そのため、ソ連はやがて苦境に立つことになる。
ことに、長期的、歴史的配慮にいたってはゼロといってよく、これらの軍事行動が、歴史的にみて、ソ連にどれほど深い傷を負わせ、そのイメージをそこなうかということに関しては、まったくといってよいほど考えられてはいない。
すなわち、ソ連を軍事的に安泰にするという軍事的要請は、ソ連の国家的要請とまっこうから対立することになる。これらの諸事件は、ソ連軍の軍事的要請が国家的要請を、踏みにじって起きたものだ、といってもよいだろう。
ソ連にも立派な死の商人がいる
このソ連軍の軍事的要請と国家的要請との矛盾は、経済に目をむけると、なおいっそう激しくなる。
最近のソ連経済の成長は、年0.7パーセントと、ほとんど停止してしまったにもかかわらず、軍事産業のみは急成長である。軍事産業がソ連産業全体のなかに占める比率もきわめて高い。
アメリカの上下両院合同経済委員会の『変革期のソ連経済』によると、1955年にはアメリカの4割であったソ連のGNPは、77年には6割になったという。
アメリカとソ連とではGNPの算出法が異なるから、実際には約半分だという学者もいる。そうだとすれば、ソ連の国防支出の伸びは、よけい狂気じみてくる。55年にはアメリカの46パーセントにすぎなかったのに、77年には116パーセントにもなった。その結果、今では、ソ連の軍備は世界一である。
大陸間ミサイルは、ソ連1398発対米1054発、潜水艦ミサイルは950発対656発、その結果、核爆発力は7836メガトン対3253メガトンだ。陸軍の兵力は360万人もいて、これはアメリカの2倍。最近10年間に、戦車兵力は35パーセント、砲兵は40パーセント、固定翼の戦術空軍は20パーセントも増加しているのである。もともとソ連は陸軍国であるが、軍艦でさえも最近は、毎年20隻もつくっている。
工業といわず、農業といわず、経済的苦難は山積しているのだ。軍拡をへらせばそれだけ経済面にプラスになるにきまっている。このままだと、軍備の重圧のために、遠からずソ連経済はへたばるだろう。だれがみても狂気の沙汰としか思えない。それなのにソ連の軍事産業はつくりまくるのだ。
軍事産業が大きな比重を占めてくると、多くの微妙な問題が起きてくる。死の商人という言葉があって、資本主義諸国においては、ひとたび形成された軍事産業は、それ自身の法則性に従って動き出し、利潤をもとめて武器を世界中に売りまくることになる。
これは資本主義社会での話だが、社会的条件を異にするとはいえ、軍事産業が武器を売りまくりたいということについては、ソ連でも、資本主義諸国でも変わらない。現にソ連は、アメリカをしのぐ武器輸出国である。
ベトナムでも中東でもエチオピアでもソ連製の武器が大量に使われた。ソ連の軍事産業は立派な死の商人だ。これに対しては、反論があるにちがいない。同じく武器の輸出といっても、ソ連と資本主義国とでは、その意味がちがっている。資本主義諸国の企業は、利潤をもとめて武器を外国に売るのに対して、ソ連などの社会主義国の場合には、同盟国を援助するために武器を輸出するのであって、これを死の商人と呼ぶことは不当である、と。