藤ヶ谷太輔"焦りの20代"を抜けた今、思うこと 予想外の仕事が新しい自分の扉を開いてくれた
「だから、30歳を過ぎてから考え方を変えました。
それまではこの時間で芝居の仕事ができたかもしれないと思っていたものも、『芝居』だけじゃなく『表現する』という大きなくくりに変えてみて。
そうしたら、『MCをやっていたから、こういうお芝居ができるようになった』とか『バラエティーで身に付けた間とリズムのおかげで自分にしかできない芝居ができた』というふうに、すべてつながっていると感じられるようになった。
表現者であるために、いろいろ挑戦させていただいてるって捉え方ができるようになってからは、20代の頃のように変に焦らなくなりましたね。
自分は何者か、何を表現したいのか……なんて難しく考えなくてもいいんじゃないかな、っておおらかにとらえられるようにもなったし。
死ぬ前に、『いろいろ経験させていただけてよかったな』って思えたら、それでいいやって考えるようになって。
年を重ねるごとに、気持ちが楽になってきました」
50回以上のテイクを重ねて生まれた表情
そんな藤ヶ谷さんの最新主演映画が『そして僕は途方に暮れる』だ。
2018年に自らが主演した同名舞台を映画化。人間の弱さやずるさ、みっともなさを生々しく描く力に定評のある三浦大輔監督の下、藤ヶ谷さんは、重大な局面が訪れるとすぐに人間関係を絶って逃げてしまう男・菅原裕一を演じている。
「三浦さんは、僕の中にある新しい扉を開けてくださる人。自分にもこういう芝居ができるんだっていう瞬間を、何度も引き出してもらいました」
その最たる瞬間が、裕一が振り返るカットだ。一言では形容できない複雑な表情を浮かべた藤ヶ谷さんの姿がスクリーンに刻まれている。
「あのシーンは本当に大変でした。三浦さんからは『日本語で説明できない表情を見せてほしい』と言われて。
でも、三浦さんの求めているものが何かまったく分からなくて、あそこだけで50回以上テイクを重ねましたね」
三浦組の一員として過ごした日々は、「想像を絶するキツさだった」と藤ヶ谷さんは言う。
「それこそ俺が裕一だったらとっくに逃げてるなって初日から思いましたよ(笑)
このまま窓から飛び出して走って逃げようかとか、『ちょっと車で休憩するわ』って言ってスタッフさんから車の鍵をもらって、そのままアクセルを踏んで家に帰ろうかな……とか。
いろいろ頭によぎりましたけど、ここで逃げたらもう仕事もできなくなるし、グループになんて説明しようとか、いろいろ考えるから逃げなかっただけ。
だからあそこまでいさぎよく逃げられる裕一は、ある種カッコいいなと思いますよ。みんな逃げたくても逃げられない人たちばっかりだから」