日本の「学歴」では世界で勝ち抜けない根本要因 他の先進国と比べて日本は閉ざされた社会だ

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国内での人的資本をめぐる閉じた競争も、製造業における生産性を高めることに貢献した。グローバルな競争が、工業製品を通じて行われていた時代の恩恵である。日本の相対的優位性が、国境内部の人的資本の高さによって得られた工業化の時代である。

いや、その閉じた市場の中で発達した、「日本的経営」が日本の競争力の源となったと主張する論者もいる(2)。就職市場も企業内部の昇進市場も、そこで指摘された特徴に重なる。おそらく1980年代までの「戦後経済」の姿でもある。

閉鎖性がますます目立つように

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しかし、日本の優位性はさまざまな要因によって喪失していった。それを論じるのはこの記事の目的を超えるが、しばしば指摘されるのは、グローバル化のさらなる展開、アジア諸国のキャッチアップ、製造業から第3次産業中心の産業構造の変化や、日本の「成熟社会」化、技術革新力の枯渇、バブル経済破綻後のデフレマインドの蔓延等々である。

その原因の特定はここではできないが、少なくとも、それ以前に通用していた工業製品を通じたグローバル市場での日本の優位性が損なわれるにつれ、人的資本のグローバルな市場から日本が遠ざかっていたことが、今度はマイナスの方向に働くようになったのだろう。そして、その閉鎖性がますます目立つようになった。

(1) 労働経済学者の尾高煌之助は、「日本的」労使関係の特徴のひとつとして、「企業への貢献に対して、報酬そのものよりも威信(prestige)の配分で報い、それによって勤労意欲をかきたてようとする社内競争と昇進の制度」を挙げている(尾高煌之助「『日本的』労使関係」、岡崎哲二・奥野正寛編『現代日本経済システムの源流』日本経済新聞社、1993年、147頁)。
(2) たとえば、J・C・アベグレン『日本の経営から何を学ぶか』(占部都美・森義昭監訳、ダイヤモンド社、1974年)、エズラ・ヴォーゲル『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(広中和歌子・木本彰子訳、TBSブリタニカ、1979年)など。
苅谷 剛彦 上智大学特任教授・英オックスフォード大学名誉教授

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かりや・たけひこ

1955年生まれ。米ノースウェスタン大学大学院博士課程修了、博士(社会学)。東京大学大学院教育学研究科助教授、同教授、オックスフォード大学教授を経て2024年10月から現職。著書に『階層化日本と教育危機』『追いついた近代 消えた近代』など。

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