日本の「学歴」では世界で勝ち抜けない根本要因 他の先進国と比べて日本は閉ざされた社会だ

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しかも日本の新卒就職市場は、初任給に大きな違いを持たない。むしろ、将来の安定性と入社後の昇進=地位をめぐる(男性に優位な)競争への参入権を獲得する競争と交換の場と見たほうがよい。

キャリアの早い段階から新入社員に能力発揮の機会を提供することを交換財とするわけでもない。開かれた市場のような、キャリアアップの一環として転職を前提とする市場ではないからだ。

こうした「閉ざされた」市場での競争と交換の結果は、開かれた市場の理念型が示すような人的資本の価値を高める循環を生みにくい。

その理由は、第1に、市場への参入が閉ざされていることにある。参入者が日本語のできるほぼ同世代の若者に限られているということだ。第2に、その副産物として、市場での交換の対象が大学や企業の「格」といった象徴財になるからでもある。経済的報酬も付随するが、非正規雇用との大きな格差を除き、その差は大きくない(ただし企業規模やジェンダーによる差は存在する)。そして、この「格」という象徴材も国内で通用する価値に留まる。

内部昇進が成功者のメインキャリアに

新卒就職市場で勝ち抜き「正社員」になった後の内部労働市場では、競争と交換の対価は地位をめぐる昇進の機会となる。それにともなう能力発揮の機会の獲得も、年数をかけて行われ、その間、組織への忠誠や同調が求められる。外部からの参入者が競争を脅かすことも、大きな報酬格差が生じることもほとんどない。時間をかけた内部昇進が成功者のメインキャリアとなるということだ。

ここまで挙げた市場は、いずれも年齢主義の影響を強く受け、個人にとっての競争相手は「同期」となる。社会学の準拠集団論を適用すれば、比較の対象は閉ざされた市場に参入できる、年齢的にも同質な集団ということだ。つまり国内でも年齢によって閉ざされているということだ。

大企業の幹部の多くが同質的な(男性中心の)集団となるのも、このような閉ざされた人的資本市場の結果に他ならない。それは、主要な経済団体の幹部の顔ぶれを見れば明らかである。いずれも内部昇進の結果である。

これらは同質性を高める選抜が行われた結果だが、こうした市場では異質性は排除され、同質的な集団内での「差異」が問われることとなる。同質的な集団内部での差異だけに、それは微小で微妙なものになる。突出した差異は、「異質」として排除されかねない。

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