中国のメディア業界で働くシビルさんは11月26日夜、新疆ウイグル自治区ウルムチ市で2日前に起きた火災の犠牲者を悼む上海での集会に参加した。友人がソーシャルメディアの微博(ウェイボ)でこの集会の写真を見つけたのだ。
「弔意を示したかっただけだ」という彼女は自身に危害が及ぶことを恐れて姓を明かさない条件で取材に応じた。真夜中近くに到着すると、何十人もの人々が輪になって静かに立ち、悲劇を嘆く手書きのプラカードとロウソクを掲げていた。新型コロナウイルスを徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策が救出活動の妨げになったと非難する一文も見受けられた。
群衆は増え続けた。1時間余りが経過した後、警察は集会場所周辺を封鎖しようとし、新たに到着した人々に引き返すよう求めた。だが、参加する権利があると主張して警察の要請を拒む人もいて、これがシュプレヒコールの始まりだったと25歳のシビルさんは言う。
「自由が欲しい。PCR検査はいらない」と誰かが叫ぶと、すぐに過激な要求に転じたとシビルさんは話す。「CCP(中国共産党)はいらない」との叫びが聞こえた。行き過ぎだと感じる人もいたようだが、集会のボルテージは上がった。ゼロコロナ政策は共産党の習近平総書記(国家主席)が旗振り役として進めてきたが、ロックダウン(都市封鎖)や大規模検査などの措置で国民生活や経済活動に多大な影響が及んでいる。
上海をはじめ、中国各地で行われた数十の集会は、すぐに火災で亡くなった人々を追悼する以上のものになった。中国のインターネットは大規模な情報検閲システム「防火長城(グレートファイアウオール)」で知られるが、ゼロコロナ政策に対する反発はソーシャルメディアで検閲が追い付かないほど一気に広がった。
何もかもが「夢のようだった」と上海の集会に参加した40代の地元女性は匿名を条件に語った。「これまでの人生で中国でこんなことが起こるとは思いもしなかった」と打ち明けた。
中国コロナデモ、沈静化の方向-市民は「白紙」戦術にシフト
デモ参加者は写真やスローガンに加え、集会が抗議活動に転じたというニュースを拡散。これら全てが、10月の党大会を経て党トップとして異例の3期目を果たしたばかりの習氏へのメッセージとなった。絶えず変わる厳格なコロナ対策が約3年続き、国民が怒りを抑えきれずにいたタイミングだった。
こうした抗議活動が続くかどうかはまだ分からない。政府は抗議デモに対しては警察を大量動員するなど、迅速に対応。保健当局は極端なコロナ規制を緩める時だと示唆した。
広東省広州市の海珠区では11月29日の夜に住民と警察の衝突が発生。同区は約1カ月にわたりコロナ対策として封鎖されていた。これを受け、治安・司法部門を統括する共産党中央政法委員会は「敵対勢力」や「破壊活動」を断固取り締まる方針を示し、「社会秩序を乱す違法・犯罪行為」は容認しないと表明した。
中国共産党、「敵対勢力」断固取り締まりへ-コロナ抗議活動警戒
先週末に起きたことを「夢のようだ」と振り返った上海の女性は、今のところ再び抗議活動に参加するつもりはないと語る。大半の中国人にとって政府の締め付けに対抗するすべはなく、取り締まりが厳しくなっても国を離れることはできず、デモは下火になると考えているためだ。
だが、これ以上の抗議行動が起きないとしても、習氏肝いりの政策に対する怒りと抵抗の自発的な発露は、共産党指導部に新たな課題を突き付けている。
米ピッツァー大学(カリフォルニア州)のハンジャン・リュウ助教(中国政治)は、「ゼロコロナのみならず政府にさえ不満を抱いているのは自分たちだけではないことに人々は気付いた」と指摘。抗議行動の経験が市民的不服従とその戦略・戦術に対する人々の理解を深めた可能性が高いとみており、「目覚めと力を得た瞬間だったのは間違いない」と分析している。
12月1日のコロナ新規感染は中国本土全体で3万3683人。
中国の習主席に新たな試練、「ゼロコロナ」反発に江沢民氏死去重なる
米カリフォルニア大学バークリー校のヤン・ロン助教(社会学)は「組織化された行動が広がる可能性は低い」と予想し、「政府はここ数年、ジャーナリストや非政府組織(NGO)、人権弁護士のネットワークといった市民インフラを実質的に破壊してきた」と説明。
米スタンフォード大学中国経済・制度研究センターの呉国光上級研究員はボイス・オブ・アメリカへの寄稿文で、新疆ウイグル自治区での悲劇が別の都市でも起きる可能性があることに人々は気付いたと論じ、「この種の同情や共感を示すのに組織も動員も不要だ。中国国民は声を上げ互いを助けるため自発的に街頭に繰り出すだろう」と記した。
原題:China Protesters Exploit Gaps in Great Firewall to Pressure Xi、*CHINA REPORTS 33,683 NEW LOCAL COVID CASES FOR THURS.(抜粋)
(最終2段落に識者の見方を追加して更新します)
More stories like this are available on bloomberg.com
著者:Bloomberg News
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら