近江商人「三方よし」が今、「世界最先端の経営」な訳 パタゴニア、テスラなど6つの企業に共通3要素
歴史的な事例になるが、YKKは1934年に吉田忠雄が創業したファスナーの世界企業で、現地に溶け込むことで世界化を果たした企業として有名である。
創業社長の吉田忠雄は「企業は社会の重要な構成員であり、共存してこそ存続でき、その利点を分かち合うことにより社会からその存在価値が認められるもの」と考え、「事業活動の中で発明や創意工夫をこらし、常に新しい価値を創造することによって、事業の発展を図り、それがお得意様、お取引先の繁栄につながり社会貢献できる」とした。これがYKK精神「善の巡環」である。
具体的には、海外進出にあたっても顧客・取引先・従業員・地域それぞれと互いに繁栄する道を考え、高品質な商品を輸出するのではなく、その土地で高品質な商品を製造できるように工場進出をし、雇用を産むということを1960年前後から行っている。多くの日本企業の海外直接投資は1980年代から本格化したが、それに先駆けること20年である。日本企業の中でも圧倒的に早く徹底的にグローバル化した企業なのだ。
しかも、創業社長の吉田忠雄は事業をはじめる前から、この「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」という哲学を持っていたという。まさにH2Hマインドセットの①人間中心(自分の行動や思考が他の人にも有意義であることを内面化)そのものである。
YKKは製造業ではあるが、アパレル企業の製品や製造工程に溶け込んで価値を産んできたので②サービス志向性(協働性・統合性・A2A的)のマインドセットも体現している。H2H概念ができる半世紀以上も前からH2H的な企業、まさに先駆けと言えると思う。
デジタル時代の「三方よし」
これまでH2Hマーケティングの事例企業を見てきたが、これらの企業はいずれもHow(どのように価値を生むか)やWhat(何を提供するか)にも優れていたにせよ、Why(存在意義)が強烈に意識されているところが、凡百の企業とは大きく異なるところである。マインドセットが極めて重要なのだ。
その見方も自らの利益や顧客だけ見ているのではなくすべてのステークホルダーを見たうえで長期的に相互に栄えることを目指している。
これはコトラーが言っているわけではなく、筆者が勝手に解釈していることなのだが、H2Hマーケティングはデジタル時代の三方よし、なのではないか。三方よしとは言うまでもなく、江戸末期から明治初期に全国で行商をした近江商人の商売哲学の「売り手よし、買い手よし、世間よし」のことである。現代にあっては「売り手よし、買い手よし、オールステークホルダー(含む地球)よし」といえよう。
マーケティングという概念が生まれたのは大量生産が進んだ1920年代以降であるが、それよりもはるか昔にこの境地に達していた近江商人に、ようやく近代的マーケティングが追いついてきたと見ることができる、と筆者は考える。
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