経営者の短期志向が会社にもたらす不都合な真実 日本企業の12ケースから学ぶ首位奪取の戦略

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ポリカーボネートのケースでは、帝人が高級グレードを開発して、オプティカルディスク用途を押さえ込んでいた。

■三菱化学 対 帝人のケース

帝人が確立した構えは、国内のオプティカルディスクメーカーに原料レジンを供給するというもので、石油化学業界では普遍的に見られる選択であった。

そこに割って入ろうとした三菱化学は、有力顧客を確保できなかったためか、川下に垂直統合をかけて自らディスクを成形する構えを敷いたものの、成形事業で海外勢にコスト競争を挑まれ、窮地に追い込まれてしまった。

そこで繰り出した起死回生の一手が、海外の競合を取り込むという逆説的な再編策であった。

自らは成形事業を縮小し、海外の競合に原料と金型を供給する一方で彼らからディスクを買い取り、自社ブランドで販売するという再編策が功を奏し、三菱化学は帝人の顧客からシェアを奪っていき、結果的に川上のポリカーボネートでも逆転が実現した。

このケースで帝人が追随できないのは、三菱化学の後を追うと優良顧客を裏切ることになるからである。

ここでは緒戦の勝利が仇となっている。それは、海外の成形メーカーとの向き合い方について苦慮していた三菱化学にとっては、必ずしも狙った効果ではないに違いない。

■大正製薬 対 スミスクラインビーチャムのケース

次の鼻炎薬も、意図せず競合を凍結するという点においては、ポリカーボネートのケースに勝るとも劣らない。ここではドラッグストアの台頭が外生的な変化で、それに危機感を抱いた大正製薬は従来のプッシュ型のマーケティングをプル型に大転換する再編成をいち早く成し遂げた。スミスクラインビーチャムは傍観するしかなく、逆転が成立している。

時機が到来するタイミングは制御できない

上記の全ケースの共通項は、外生的な変化である。それを傍観した企業が、積極的に対応して構えを再編した企業に首位の座を譲り、逆転に至ってしまう。

または、異なる構えを敷いていた企業間の優劣が、外生的な変化によって初めて明確になる。そういうパターンが、ここでは浮き彫りになっている。

外生的な変化には、全国紙の一面を飾るマクロ経済的なものもあれば、業界紙だけが取り上げるミクロ経済的なものもあるので、その点には留意されたい。いずれにせよ、時機読解が重要となるケースである。

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