習近平「微笑外交」に日本はどこまで応えるべきか 3年ぶり首脳会談は「対日関係修復」のシグナル

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このように日本との関係を含めて、中国は、対外関係の調整を図り始めた。しかし、先の党大会報告は、これまで進めてきた欧米諸国との対抗姿勢、発展途上国の代表、グローバルガバナンスへの積極的な参加といった外交政策は引き続き進めていく、としている。

これらの政策は、自らの国力に自信を深めた中国社会が求めているものであり、この旗印を下ろすことは容易ではない。強気の対外姿勢は維持しつつ、各国との経済活動・交流活動に悪い影響が出ないようにするという難しい舵取りを中国は迫られている。特に、欧米諸国や日本との関係で、この舵取りをどのように進めていくのか。

その具体的な道筋は中国自身もまだ明確に描ききれておらず、今後の5年間をかけて試行錯誤しながら進めていこうとしているのではないだろうか。

中国の「行動」の変化を見定めよう

中国は対日関係のハンドリングの難しさはよく理解しており、今回の会談を経て、日中関係が突然大きく改善するとは想像できない。日本としては、まずは今回の首脳会談で中国側が合意した対話や交流が確実に実施できるかどうか、中国の「行動」をじっくりと見ていけばよい。

日本は、尖閣諸島周辺海域で続く中国公船による挑発的活動や南シナ海での現状変更の試みなど、受け入れられないものについては引き続き毅然と対応していくべきである。同時に、中国指導部が外交関係の調整を進めようとしていることを念頭に、中国側との対話や交流の機会を通じて、中国の調整を方向付けるような努力をしていくべきである。

先の党大会では、経済安全保障体系の整備強化やサプライチェーンの安全保障が強調された。これら政策が不透明に、かつ中国の利益を前面に出すような形で進められれば、中国ビジネスを行う日本企業にとって懸念であるだけでなく、アメリカ国内を刺激し新たな米中対立の種となって、日本企業のビジネスに悪影響を及ぼしかねない。こういった視点を中国側にさまざまなチャネルで伝えていくべきであろう。

日本は、岸田首相以下、「建設的で安定的な日中関係の構築」を中国側に求めている。日本としても、習近平の中国は今後5年間は続くことも念頭に、諸課題はあっても中国側との間の対話、交流を安定的に進めていく必要がある。

日本国内の中国に対する厳しい視線もあり、日本国内にも中国との協力に委縮するような雰囲気があることは否定できない。欧米諸国の経済界やシンクタンクは、中国との間で人権や台湾問題で対立する状況にあっても、オンライン会議などで中国側との対話を継続してきた。

中国のシンクタンク研究者からは、「われわれは日本のシンクタンクや大学とも交流を行いたいのだが、日本側が消極的で実現できず困っている」という声もよく聞く。

そのような状況を生み出した背景には中国側が反省すべき事情もあるが、中国側との対話や交流を継続的に行えるか、さらには、習近平が進めようとしている対外関係の調整をうまく誘導していけるか、今回の首脳会談は日本に対しても課題を投げかけている。

町田 穂高 パナソニック総研 主幹研究員

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まちだ・ほたか / Machida Hotaka

東京大学卒業後、2001年に外務省入省。高校時代に観たTVドラマ『大地の子』で聞いた中国語の発音に魅せられ、入省後は中国語を研修。中国・南京大学及び米国・ハーバード大学(修士号取得)に留学。中国・モンゴル課、日米地位協定室、国連代表部、在中国大使館(2回)などで勤務。「日中高級事務レベル海洋協議」の立上げや「日中海上捜索・救助(SAR)協定」の原則合意に関する交渉を担当・主導した。2022年4月に外務省を退職し現職。地経学研究所(IOG)主任客員研究員を兼任。

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