映画音楽の巨匠「モリコーネ」密着取材で見た素顔 『夕陽のガンマン』など多くの作品を発表

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エンニオ・モリコーネといえば、多くの人たちから尊敬を集める世界最高峰のアーティストではあるが、一方で天賦の才を持った職人でもあった。

監督が映画音楽に何を求めているのか。対話を非常に大切にした彼は、監督たちの意図を汲み取り、それを形にすることに心を砕いてきた。特にトルナトーレ監督とは相性が良く、「仕事のうえでもすばらしい協力関係にあるんだ」(『あの音を求めて』より)と語るほどに、深いきずなを築き上げた。

トルナトーレ監督も「新人だった時の自分にも、エンニオは最初から対等に接してくれた」と感謝の思いが溢れ出している。彼が掲げるモリコーネへの敬愛の念は、本作の語り口からも強く伝わってくる。

それゆえ彼が監督に就任した際に、プロデューサーたちに告げたあることがあった。それはモリコーネが関わった映画のシーンをスクリーンに映し出す際は、場面写真などの静止画でなく、そのままの動画で引用したい、ということ。

「それは本質的なことだ」と語るトルナトーレ監督は、「最初から実際の映画のシーンを使わずに『ミッション』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、それに多くのマカロニ・ウェスタンの音楽の誕生を物語ることなどできない」とその意図を語る。

それゆえ観客は、モリコーネの作品遍歴を振り返りながら、いつしか映画の歴史に立ち会うような気持ちになってくる。

そうそうたる著名人が歴史を証言

劇中でその歴史を証言するのはクエンティン・タランティーノ、クリント・イーストウッド、ウォン・カーウァイ、オリヴァー・ストーン、ハンス・ジマー、バリー・レヴィンソン、ジョン・ウィリアムズ、ダリオ・アルジェント、テレンス・マリック、ブルース・スプリングスティーン、ベルナルド・ベルトルッチ、ジェイムズ・ヘットフィールド、クインシー・ジョーンズなど70名以上にもおよぶそうそうたる著名人たちだ。

モリコーネとは小学校の同級生であり、『夕陽のガンマン』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』といった傑作を作りあげた盟友セルジオ・レオーネ監督との信頼関係をうかがわせる数々のエピソード。

スタンリー・キューブリック監督がモリコーネに『時計じかけのオレンジ』のオファーを出したことがあったが、レオーネの嫉妬などもあったのか、結果的にその仕事を逃してしまったエピソードなども登場する。

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