映画音楽の巨匠「モリコーネ」密着取材で見た素顔 『夕陽のガンマン』など多くの作品を発表

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さらにピエル・パオロ・パゾリーニや『天国の日々』のテレンス・マリックら鬼才たちとの音楽のやりとり。過去に幾度となくアカデミー賞にノミネートされながらも、その度に悔しい思いをしてきた彼が、ついにオスカー像を手にした時の感動エピソード。

『ニュー・シネマ・パラダイス』の台本に惚れ込んだモリコーネが、その時抱えていた仕事をキャンセルしてまでもこのプロジェクトに参加することになったエピソードなど、そのエピソードのひとつひとつが伝説的だ。もちろんそこには当然、モリコーネの極上の音楽が流れることになる。

挫折も多く味わってきた

だが彼の人生は常に順風満帆だったわけではない。あまたの成功の陰で、挫折も多く味わってきた。

モリコーネの師匠のペトラッシは、商業音楽は道徳的に非難されるべきという持論があり、映画音楽の道に進んだモリコーネは「自分は裏切り者だ」と劣等感を抱いていた。

そんな複雑な思いを抱えていた時期の葛藤も、信頼すべきトルナトーレ監督だからこそ真摯に語ることができたのだろう。そんな彼がいかにして、自分の仕事に誇りを持つようになったのか。本作で描かれた、その心の旅路も感動的だ。

そしてそんな彼の芸術活動を支えたのは妻のマリアだった。彼女はモリコーネが作曲に専念できるよう、献身的に夫を支えただけでなく、厳しい観客でもあった。ある時期からモリコーネは、いくつかの候補曲ができあがると、それをすべてマリアに聴かせるようになった。

すると彼女は「これはいい」「これは捨てちゃいなさい」と指摘し、モリコーネもその意見を参考にしていたという。彼女は音楽の専門家というわけではなかったが、観客と同じ目線を持ち、かつモリコーネにも容赦なく意見することができる重要な存在だった。トルナトーレ監督も「こうして彼は、大衆が本当の意味で純粋に感動する、新鮮な音楽を作るようになった」と指摘する。

モリコーネが亡くなったのは本作の編集作業中のことだった。結果として、生前の姿を捉える最後の作品となってしまったが、本作に本人の不在を感じさせるような要素はほとんど見当たらない。

その理由について「私はエンニオについて語るというよりも、彼の音楽と同じように、今も皆の中に生きているエンニオを見せたかった」と語るトルナトーレ。その旋律は時を超えてなお、われわれを魅了してやまない。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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