新海誠作品から「思春期の少年」が消えた"なぜ" 大ヒットアニメ「すずめの戸締まり」にみる進化
新海氏自身も作風の変化に自覚はあるようだ。
「初期の頃はもっとこぢんまりした、個人の気持ちの起伏だけで成り立っているような話をずっと作ってきましたけれど(中略)年齢と共に自然と興味がもう少し外側に移ってきたというのはあると思います。あとは制作の環境ですね。自主制作や単館公開でこぢんまりやってきた時代が続きましたが、途中から東宝とご一緒するようになって、公開規模としては広がったわけです。見てくれる方が増えたことでより多くの人が『あ、なんかわかるような気がする』という題材に起点を置きたいと考えるようになってきた」(『日本映画navi』2022年vol.102)
こう新海氏自身が語るように、それは作家としての進化なのかもしれない。“君と僕というセカイ”を起点にした新海作品。直近の3作は特に、その“セカイ”と地震や気候変動といった実際の世界の問題を絡めて描いている。
観てくれる人を「もっと怒らせたい」
2019年の『天気の子』公開時に、新海氏が気にしていたのが“誤読”と“怒り”だ。
前述の通り、『君の名は。』は作風を変えずに大ヒット。しかし、そこでは想定外の層に届くことによって“誤読”が生まれたという。
「『君の名は。』は災害をなかったことにする映画だという意見をいただいた。僕は災害が起きるであろう未来を変えようとする映画、あなたが生きていたら良かったのにという強い願いを形にした映画を作ったつもりだった。でも代償なしに死者を蘇らせる映画だとも言われて……。どんどん広がっていき、本来なら見るはずがなかった人たちが映画を見て、結果、出てきた言葉だと思う」
だが、そこで新海氏は表現を緩めることはしなかった。続けてこう語っている。
「彼らが怒らない映画を作るべきか否かを考えたとき、僕は、あの人たちをもっと怒らせる映画を作りたいなと。人が何かに対して怒るのはすごく強いエネルギーが必要で、『君の名は。』は少なくとも何かを動かしたわけです。そういう気持ちが『天気の子』の発想につながっていった」(「サンケイスポーツ」2019年7月20日付)
「怒らせる映画を作りたい」という発言は、前作で日本映画の記録を塗り替えるほど多くの観客に作品を届けた“メジャー監督”としては、珍しい主張かもしれない。
結果、『天気の子』は興行収入140億を超えるヒットを叩き出したが、評価としては賛否両論割れる作品となった。
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