橋爪:それは多分そうだと思うよ。仲間外れにされたから、余計対抗心をむき出しにしたわけだ。そういうこともロシアに深く内在しているルサンチマンだと思う。
大澤:だからこそ、そのルサンチマンを解消するためにも、この敗北自身が広い意味でのロシア国民の勝利でもあるという意味づけが必要なんですよ。
僕はね、リアリズムで考えて革命が起こりそうだと思っているわけじゃないんです。幸福な結果を得るには、ある意味ちょっと非現実的な方向性で物を考える必要がある。あまりにリアリズムでいくと、ネガティブな結果しか頭に描けないと思うんです。
最も憂慮されるのは「核兵器」の行方
橋爪:ネガティブであろうと、何であろうと、最悪でなければいい。これは最悪をどう回避するかという問題なんです。最悪とは、核兵器と権威主義的な体制の結びつきです。そういう国がすでにいくつかある。
ロシアの場合は、権威主義的な体制が核兵器を持っていて、自分の主張が認められないならば核兵器を使うぞと主張している。これは最悪じゃないですか。相手の言うことを聞くか、核兵器が使われるか、いずれにしてもこんなひどいことはない。
これを何とか「小型戦術核兵器」程度でうまく収めた場合、そこからどう収拾していくかといえば、まず権威主義的な体制をなくすと同時に、最も大事な点は、核兵器を取り上げるということです。
核兵器がなければ、最悪、権威主義的体制になっても、周辺に害悪は及ばない。核兵器がないロシアだったらば、民主的になればEUに入れてあげるという選択肢が出てくる。だけど、核兵器があるとそうはいかない。
大澤:確かに核兵器の問題は重要ですね。ロシアから核兵器を取り上げることは可能なんでしょうか。
橋爪:それには中国の同意が必要だとか、面倒なことが山ほどあるんだけれど、まずロシア軍が降伏することが、核兵器を取り上げるための非常に重要な点なのです。軍政をしく、軍事占領することも、核兵器を管理下に入れるのにとても大事な点です。
考えてもみてください。大澤さんが言うように、民衆が立ち上がった場合に、民衆が核兵器を手に入れてしまうわけだよ。これが非常に私が心配する点です。誰がプーチン政権を倒したにしても、その人が核兵器を手に入れてしまうと、外からコントロールすることができなくなるので、そのあとがとてもややこしい。そんな不安定な状態になるよりも、軍事占領のほうがはるかにいい。私が軍事占領にこだわるのは、それがいちばん大きな理由です。