「プーチン政権の終い方」戦術核は使われるのか プーチン退場後の「最適シナリオ」を考える

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大澤:なるほど、説得力がありますね。核兵器の問題を考えると、橋爪さんの言うようにプラクティカルな解決が望ましいのかもしれない。ロシアに、ルサンチマンが蓄積するようなナショナリズムが残るのは脅威なので、僕は、橋爪さんのおっしゃることに別に反対ではないんですよ。

核兵器が今、使われるかどうかという問題だけじゃなく、使われる可能性がある世界を残しておくことが問題なんですからね。 

橋爪さんの言うことはすごく説得力があるんですが、でも現実的にロシアを10年も占領統治するなんてことができるんでしょうか。ロシアの主権を奪って植民地のようにするという形になりますね。今、ロシアは自分たちが大国であることを証明しようとしているわけで、それに対する最も厳しい制裁とも言えますよね。

それを受け入れたとしても、ロシアが立ち直れるかどうか。少なくともわれわれにとって脅威じゃないロシアが戻ってくるようにするのは、かなり困難な道のように思えます。

困難でも第3次世界大戦が起きるよりいい

橋爪:どんなに難しくても、第3次世界大戦や核戦争が起きるよりましでしょう。EUはそれを覚悟しないと駄目ですよ。その覚悟なしにこの問題を解決することはできないと思います。

『おどろきのウクライナ』(集英社新書)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

ロシアもそれを受け入れないと駄目ですよ。ロシアは偉大で核兵器があってEUと対等だというイリュージョン(幻想)、フィクションに人びとがなじんでいたからこそ、プーチンが出てきたわけでしょう。

そういうイリュージョンはくじかれなければならない。そうした誇大妄想のイリュージョンを取り除いて、誇りと自信と未来への希望がなければならない。それはあるはずなんです。そのきっかけは多少強引にEUが提供するとしても、最後はロシアの人びとがつかみ取らなければならない。

大澤さんの言うように、それがプーチンに対する抵抗勢力となって出現するのは望ましいシナリオの1つだろうけれど、現実性がないし、また、核兵器のことを含めて危険なシナリオになると私は思いますよ。

戦術核兵器を使う、あるいは使いそうになった権威主義的な体制は打倒されるんだという歴史の教訓を、21世紀の早い段階に1つつくること。それができれば北朝鮮も中国もおとなしくなって、権威主義的な体制と核兵器の組み合わせは駄目なのだという結論がはっきりする。困難な作業は、そのためのコストです。

大澤:なるほど。わかりました。希望の未来は最終的にはロシアの人びとがつかみ取るんだということ。その点では橋爪さんと僕の意見は一致していると思うんですね。そのプロセスに対して、橋爪さんはリアリズムで考え、僕はわりとロマンチックなビジョンを考えている。

僕は両方の視点があっていいと思う。『おどろきのウクライナ』でも、あらゆる視座から徹底的に議論しましたが、1つの問題をいろんな角度から掘り下げることは大事ですね。

(構成・文=宮内千和子)

橋爪 大三郎 社会学者、東京工業大学名誉教授

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はしづめ・だいさぶろう / Daizaburo Hashizume

1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)、『おどろきの中国』(講談社現代新書)、『一神教と戦争』(集英社新書)など。

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大澤 真幸 社会学者

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おおさわ まさち / Masachi Osawa

1958年、長野県生まれ。社会学博士。千葉大学助教授、京都大学教授を歴任。2007年『ナショナリズムの由来』(講談社)で毎日出版文化賞、2015年『自由という牢獄』(岩波現代文庫)で河合隼雄学芸賞受賞。ほか『不可能性の時代』(岩波新書)、『三島由紀夫 ふたつの謎』(集英社新書)など多数。共著に『ふしぎなキリスト教』『おどろきの中国』『げんきな日本論』(講談社現代新書)

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