自衛官の「命の値段」は、米軍用犬以下なのか 実戦の備えがないため派兵どころではない

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衛生に関する法的な問題も多い。例えば諸外国に派遣される戦闘部隊に同行する救護員(衛生兵)は、全員が診療資格を持っているわけではなく、せいぜい准看護師であり、残りは自衛隊内部での教育を受けた者である。つまり、救急課程研修を修了した消防の救急隊員と同程度の能力なのだ。

救急救命士でもないため、自分の判断での投薬や簡単な縫合などの処置ですらできない。軍隊ではありえないこと

2003年に制定された有事法では野戦病院のような実戦における野外治療施設の開設・運営が認められた。

戦場には装甲野戦救急車が必要だ

それまでも、当然ながら陸自は野外治療施設を装備していたが、それまでは病院法の規制によって使用できなかったのだ。つまり野外治療施設は実戦で使うことが許されず、演習場の中でしか開設・運営できなかった。それでも使えば法令違反となる。つまり有事法ができるまでは、「病院ごっこ」、「お医者さんごっこ」しかできなかった。演習地以外ではタコツボや塹壕を掘ることもできなかった。

本来ならばこのような問題点は、防衛省、自衛隊が声を上げて法改正を求めるべきだが、そのようなことを防衛省も自衛隊もやって来なかった。その必要性を感じていなかったからだろう。このため有事法制定は防衛省ではなく、政治主導で行なわれた。有事法制定後も自衛隊が法的に戦えない由々しき問題は山積している。だが防衛省や自衛隊がそれらを積極的に改善する気配はみられない。

諸外国の衛生兵に当たる陸自の救護員は概ね陸自の戦術運用単位である1個普通科中隊を基幹とした機甲科、特科、施設科などを合わせた部隊、約150名に1人しかいない。陸幕広報室の説明では1~数名配備とされてはいるが、先述のように実際は人員不足で大抵1名のところが多い。当然医官は配備されていない。つまり中隊以下の部隊の現場で投薬や注射すらできない可能性が高いのだ。これで陸自の言う「ゼロカジュアリティ」が実現できわけがない。

自衛隊は予算不足で装甲野戦救急車がない

対して米陸軍では、軍病院勤務の看護兵の中から能力と適性を有する者のみが選抜されてMEDICとして養成されるため単なる「衛生兵」ではなく、極めて高度な能力をもったプロフェッショナルとなっており、1個小銃小隊に1名配置される彼らは戦闘員から「ドク(先生)」と呼ばれ、頼られている。

さらに陸自では予算不足で装甲野戦救急車は存在しないし、ソフトスキンの救急車すら充足率を大きく割り込んでいる。このため他の先進国、例えばNATO軍ならば助かるような怪我でも自衛官は命や、手脚や視力を失うケースが多くなるだろう。NATO軍ならば1名の戦死ですむところを、自衛隊は20名、30名単位の戦死者をだすことになるだろう。手脚、視力を失う隊員の数も同様である。これで本当に戦争ができるのだろうか。

衛生システムの不備は、「同盟国」の共同作戦でも問題になる。当然ながら有事に米軍とともに戦った際に、自衛隊は米軍将兵にまともな応急処置を施すことができない。逆に米軍が手当する自衛官は助かる可能性が高くなる。これはPKOなどの海外活動で他の国とともに活動した場合も同じだ。自衛隊の現地部隊がまともな処置ができずに、他国の将兵が死ねば我が国はその国から批判に晒され信頼を大きく失うだろう。これで他国の将兵と肩を並べて戦えるわけがない。

政府や防衛省は、必要性が極めて薄い10式戦車や機動戦闘車などの高価な「火の出る玩具」よりも衛生に予算をかけるべきだ。「火の出る玩具」よりも衛生能力は遥かに使用頻度が高いものある。近年発生頻度が増している自然災害への派遣現場で衛生能力を発揮する機会は多いであろうし、非番の隊員が外出先で事故に遭った民間人を救護したという報道も目にする。衛生能力の充実は、国民の信頼と支持を得て防衛力の基盤作りに大いに役立つはずだ。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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