福岡「暴力団本部の跡地」で牧師が挑む"街の再生" 福祉施設をつくる「希望のまちプロジェクト」

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2000年、NPO法人に。掲げたミッションは「ひとりの路上死も出さない」「ひとりでも多く、一日でも早く、路上からの脱出を」「ホームレスを生まない社会を創造する」。行政や企業、NPO、抱樸に登録する1900人を超えるボランティアなどと連携して活動してきた。

この34年で、抱樸の支援によって家に住めるようになった人は3750人にのぼる。そして支援の対象は、生活に困窮する家族、声を上げられない子ども、障害のある人、高齢の人、罪を犯した人まで広がり、27事業になった。

コロナ禍で「貧困」と「孤独」が浮き彫りに

コロナ禍になると、これまであまり相談を受けることのなかった人たちから相談が寄せられるようになった。

例えば、夜の商売の女性、タクシー運転手、警備員、自営業者、社員寮に住んでいた人など。「仕事をしながら普通に暮らしていても、ささいなことで明日にも貧困層に転落してしまう人たちがたくさんいると実感した」と奥田さんはいう。

抱樸は2020年4月、クラウドファンディングを始めた。社会的に弱い立場にいる人から仕事を失い、住まいを失い、人とのつながりを失って命の危機に直面している。そんな現状を訴え、全国の団体と連携して約200の支援付き住宅を作る構想を提案。

すると3カ月で1億1500万円を超える寄付が集まった。「奇跡的ですよね、1万289人もの方々が寄付してくださって。3万円以下の人が98%を占め、『自分も大変だけど、給付金の一部を回します』というコメントも多かった。他人ごとではないと共感してくださったのだと思います」

奥田さんは今、さらなるチャレンジに邁進している。北九州市にある暴力団・工藤会の本部事務所の跡地に、複合型の社会福祉施設を建設し、誰もが助けてと言える「希望のまち」をつくるというのだ。

社会福祉法人を設立する準備は、数年前から進めていた。「自由度が高いNPOの抱樸と、専門性の高い社会福祉法人と合わせて活動することで、さらに断らない態勢ができる。それにね、抱樸は個別の支援に特化して社会復帰を目指してきたけれど、僕の心の奥底には『そもそも復帰したい社会なのか』という問いがずっとあった。2000年に掲げた第3のミッション『ホームレスを生まない社会を創造する』というまちづくりにいよいよ向かおうと、土地を探していました」

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