共和党「下院奪還」懸念が広がるトランプ・リスク 社会の分断と政治の混迷が深まり弱体化する

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2024年大統領選挙の展開はなお不透明であり、おそらく混戦となろう。過去の大統領選挙を振り返ればわかるように、泡沫候補とされた人物に勢いがついて大統領選を勝ち抜くシナリオも考えられる。2020年と同じように、不正を理由に選挙結果を受け入れない陣営が各地で訴訟を起こし、さらに支持者らがさまざまな妨害行為に走るなど、大混乱になる可能性も十分にあるだろう。

『アメリカの政治任用制度』で説明したように、これから大統領選挙に向け、両党の選挙対策本部を誰が仕切るかにも注目したい。これまでもそうであったように、そこから将来の閣僚や政府高官ら政権を動かす人材が登場するからである。

2024年にかけての動きには要注意

アメリカの動きは世界にとってどういう意味を持つのだろうか。社会の分断がさらに深まれば、国全体の力を結集することは難しい。この国で「内戦」がささやかれているにしても、過去の南北戦争のような事態にはならないだろう。現時点では政治的なレトリックにすぎない。ただ、それが多用されることで、社会の諸勢力が過激な方向に走ることが懸念される。

アメリカの政治において寛容さと自制心が失われているという指摘もある(例えば、レビツキー&ジブラット『民主主義の死に方』)。「トランプ疲れ」を指摘する声もあるが、分断をあおるような政治手法は彼が去っても残るだろう。超党派を訴えてきたバイデンですらトランプ派の共和党員を非難し、「半ばファシズム」とのレッテル張りをしたこと自体、分断の深刻化を物語る。

何より、専制国家とされる国々、とくに中ロ両国を勢いづかせることが懸念される。両国が連携してアメリカの分断を利用して次なる冒険主義に走らないか。これは日本にとっても安全保障に関わる重大問題である。とくにウクライナと台湾を巡る両国の動きをこれまで以上に注視すべきだろう。米ロ両国の大統領選と台湾総統選が予定されている2024年にかけての動きには要注意である。

小池 洋次 関西学院大学フェロー

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こいけ ひろつぐ / Hirotusgu Koike

1950年和歌山県生まれ。1974年横浜国立大学経済学部を卒業後、日本経済新聞社に入社。シンガポール支局長、ワシントン支局長、国際部長、日経ヨーロッパ社長、論説副委員長等を経て、関西学院大学総合政策学部教授。日経、関学大在職中、総合研究開発機構(NIRA)理事、世界経済フォーラム・メディア・リーダー、米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際大学院(SAIS)客員研究員等を兼務。現在、関西学院大学フェロー、グローバル・ポリシー研究センター代表。主な著書に、『アジア太平洋新論』(日本経済新聞社)、『政策形成の日米比較』(中公新書)、『アメリカの政治任用制度』(東洋経済新報社)等。

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