共和党「下院奪還」懸念が広がるトランプ・リスク 社会の分断と政治の混迷が深まり弱体化する

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では、トランプのどこが問題なのだろうか。日本にもトランプのファンがいて、その復権を望む声もあるようだ。その多くは日米同盟堅持・強化を期待してのことであろう。確かにトランプ政権でそうした方向性があったのだが、それは安倍晋三元首相とトランプとの個人的なつながりがもたらしたと言うべきである。トランプ自身、海外諸国との同盟には懐疑的だった。かつて北大西洋条約機構(NATO)について「時代遅れ」と発言したことを忘れてはならない。外交も、経済をベースにした取引、つまり損得勘定で判断するのがトランプである。自国の経済的利益のために同盟関係を損ねる懸念はぬぐいされない。

彼の問題は、第1に権力の私物化である。自らに忠誠を誓う人物と家族や親族で周囲を固めてきた。国全体をまとめるべき指導者としてはいかがなものか。

第2に挙げるべきは、組織軽視である。政官のエスタブリッシュメントを攻撃し、それらが培ってきた経験や識見を生かすという発想は皆無に近い。2018年の米ロ首脳会談後の記者会見で、自国の諜報機関がロシアの2016年大統領選介入を断定したにもかかわらず、それを否定したプーチン大統領の主張を受け入れるような発言をした。これでは、政府の組織で働く人々のやる気をそぐのは当然であろう。

第3は同盟軽視である。同盟はアメリカが誇る国際的な政策インフラと言っていい。それをないがしろにするような姿勢は、同盟国との結束を弱め、結果としてアメリカの国力を弱めてしまう。同盟国にとっても、不安定で予測不能なアメリカ大統領はきわめて厄介な存在だ。自国の政策運営上、大きな混乱要因であり、アメリカとの政策調整も円滑にはいかない。

能力や実績を無視するトランプの政治任用

さらに言えば、トランプの異常とも言える性格である。めいのメアリー・トランプ(臨床心理学者)は著作(邦訳『世界で最も危険な男』)で、叔父を幼いころからの観察も踏まえ、①彼は自己陶酔症(ナルシスト)、②反社会的人格障害にも当てはまり、この障害が重度の場合、社会病質者(ソシオパス)と判断される、③社会病質者の特徴としては、共感力を持たない、平気で嘘をつく、善悪の区別に無関心、他者の人権を意に介さないなどが挙げられる──と指摘した。親族内の確執があることも考慮する必要があるとしても、メアリーの分析は体験に基づいているだけに重要性を持つというべきだろう。

『アメリカの政治任用制度』で指摘したことも紹介しておこう。トランプの政治任用人事についてである。既述のように自分への忠誠を基準に登用する結果、その人物の能力や実績を無視することになった。典型的な例が、前任の大統領、オバマの忠告を無視して、政権発足と同時にマイケル・フリン将軍を国家安全保障問題担当大統領補佐官に任命したことである。案の定、周囲からの攻撃にさらされ、彼は任命からわずか20日で職を辞さざるをえなくなった。

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