共和党「下院奪還」懸念が広がるトランプ・リスク 社会の分断と政治の混迷が深まり弱体化する
マッカーシー議員は、バイデン政権下で下院共和党議員のとりまとめ役と言うべき地位にあった。トランプが扇動したとも言われる議事堂襲撃事件(2021年1月6日)の直後、議員やスタッフらの身を案じ、大統領に早期対応を促したが、かなわず、電話で言い合いになったという。それからわずか3週間後にトランプに再びすり寄り、フロリダにある彼の邸宅マール・ア・ラーゴで会談し、笑顔のツーショットを撮らせている。このとき、2022年の中間選挙に向けての協力で一致したという。トランプは彼や上下両院の支持勢力を通じて議会を左右できる立場にある。
下院共和党は、トランプが掲げてきたアメリカ第一主義を貫こうとするはずだ。ここで懸念されるのは、ウクライナ支援にブレーキがかかりかねないことである。マッカーシーは中間選挙前に、ウクライナ支援の重要性を指摘しながらも、その予算を吟味すべきことを訴えた。下院議長を狙い、トランプ派の議員の歓心を買うためであったとの指摘もあるが、アメリカがこれまでのようなペースでウクライナ支援を続けられるかどうかは疑問である。
マッカーシーは国内問題においては、フロリダのトランプ邸への連邦捜査局(FBI)による家宅捜査を批判し、この捜査について、司法省による政治干渉として調査するとも言明している。
トランプ推薦候補の9割が当選
トランプは共和党の予備選で、推薦候補を続々と当選させた。同党内で指導的立場にあってトランプを厳しく批判してきたリズ・チェイニー下院議員(ワイオミング州選出)を、刺客候補を送り込むことで敗退に追い込んだのは象徴的な出来事である。中間選挙の本選で重要選挙区での敗北もあったものの、上下両院のトランプ推薦候補の9割が当選確実になった。前述のように、中間選挙後も影響力を行使しようとするのは明らかだ。
だが、トランプの思惑どおりになるかどうかはわからない。というより、彼の前途には大きな影が差しているというべきである。中間選挙後、世代交代を求める声が党内で強まっていることも確かだ。
何より、各種の訴訟に直面し、これから多くの裁判をこなさなければならない。連邦や地方でさまざまな訴えが起こされており、それは彼への支持を弱めかねない。物理的に裁判に時間を費やしながら、これまでと同様の政治活動ができるかどうかは疑問である。現時点で、捜査対象になっているのは、①2021年1月6日の議事堂襲撃事件における扇動、②ジョージア州での選挙介入・妨害、③機密文書の持ち出し、④ビジネス面での脱税・不正金融取引(すでにトランプは提訴)──などである。
連邦の司法省はこのうち①と③についてトランプを起訴するかどうか迫られるが、これは時間との勝負だろう。起訴するとすれば、そのタイミングも問題だ。トランプが選挙に向けた活動を本格化したあとでは、政治介入との批判が起きるので、行動を起こせない可能性もある。トランプが異例の早さで出馬宣言を行ったのは、連邦、州各司法当局への牽制を狙ったからでもあろう。
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