「地縁血縁」から解放された日本の残酷な結果 自由恋愛や友情に熱狂できた時代は終わった

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──なぜ団地だったのでしょう。

戦後日本の経済成長モデルが関係している。都会に工業地帯をいくつも設け、郊外には社員や家族が暮らす団地を濫造した。団地でも盆踊りや運動会が行われた時期もあった。しかし、その子ども世代は団地から出ていった。都心の大学や職場に通うには不便だからだ。団地には高齢者が残され、孤独死が見られるようになった。

経済合理性だけで都市を形成してきたことの残酷な結末が、団地には象徴的に表れている。

──地方では過疎化が深刻です。

都会に人が集められたことで、地方の山村は不条理に見舞われている。限界集落を通り越して、リアルに消滅する集落が出てきた。

私が実地調査をしてきた静岡県の山村でも1つの集落が消滅するほど過疎化が進み、総合病院の存続問題が持ち上がった。病院の維持にはコストがかかる。急病患者はドクターヘリで都市部に運ぶことができるのだから病院は閉鎖したほうが合理的だという議論になった。まさに「選択と集中」だ。

町のサービスが合理性の理論の下で縮小されていく中、ある住民はこう口にした。「生まれ育った故郷に住みたいと願うことが、そんなにぜいたくなことなのか」。私には忘れられない言葉だ。

日本は世界トップクラスの経済先進国にはなったけれど、本当の意味で豊かになったのだろうか。

自由は残酷な結果をも招く

──内閣府の調査では現役世代でも孤独を感じる人が増えています。

意外な結果だった。これまで孤独や孤立は高齢者の話だったが、働き盛り世代にまで広がっている。

要因の1つは未婚化が進んだことだろう。結婚のデータは国が結婚を推奨しているように受け取られかねないため通常は公表しない。今回公表したのは、結婚自体が格差化し若い世代を孤独に追い込んでいる傾向が見られたからだ。

血縁、地縁、会社縁から解放され、自由にはなった。しかし自由は残酷な結果をも招く。働き盛り世代にまで孤独感が広がる現実をどう受け止めたらいいか。真剣に考えるべき時だ。

野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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