斎藤幸平が「あつ森」で体験した平等・公正社会の幻 ほのぼの無人島生活が全体主義的な快楽に
最初はテント生活で本当に何もないので、森を切り拓き、木の枝や果物、貝を拾うだけ。そして、集めた木の枝や石を使って、自分で釣りざおや斧を作る、いわゆるDIYの生活だ。気づけば、3歳の長男も初めてのテレビゲームだが遊び方を覚え、DIYをして、家に飾るオブジェを楽しそうに選んでいる。
ほかの人はどんな風に遊んでいるのだろうか。気になって調べてみた。すると、<「あつまれ どうぶつの森」が日本人に与えるメンタルヘルスの効能すごい気がするな。まずほのぼのとした自然の世界観に癒やされる>というツイッター上でのつぶやきが目に止まった。つぶやいていたのは、ウェブメディア「ジモコロ」編集長の徳谷柿次郎さんだ。
コロナ禍であつ森をやり込んだという徳谷さんに話を聞くと、「お金を稼ぐだけがモノを手に入れる方法ではなく、DIYの要素があるのが画期的」だという。さらに、「コロナ禍の外出制限もあり、DIYへの関心が高まっています。けれども、都会ではDIYや庭いじりをしたくても、騒音やスペースの問題があってできない人が多い。DIY欲求を手軽に満たすことができたのでは」とヒットの理由を分析する。
オウエンの提唱した貨幣改革とあつ森は似ている
モノ作りを楽しみながらゲームを進めていると、パニーという来訪者が島に現れた。なんでも、“理想のコミューン”を作ろうとして旅をしているのだという。ここで思い出したのは、19世紀イギリスの社会主義者ロバート・オウエンがアメリカに移住して、私財を投じて設立した「ニューハーモニー」だ。オウエンは、平等で、自由な自給自足型コミュニティを異国の地で一から建設しようと試みたのである。
目指すべきユートピア社会の柱としてオウエンが提唱したのが貨幣改革であり、「労働証券」の発行である。生産物を「交換所」に持ち込むと、メンバーはその労働時間に応じて、労働証券がもらえる。
交換所には、労働時間で表示された生産物が並んでおり、労働証券で購入できる。そうすると、各生産者は自らの労働時間に見合った交換が可能になる。逆に、資本家や地主のように働かないで生活することは許されなくなる。それこそが搾取のない公正な社会だとオウエンは考えたのだった。
あつ森も似ている。作った道具で魚や昆虫を捕まえたら、「タヌキ商店」で買い取ってもらえる。それが、「ベル」という地域通貨を獲得するほぼ唯一の方法である。だとすれば、実は、タヌキ商店が「交換所」で、ベルは「労働証券」なのではないか。
あつ森が社会主義のゲーム!?「コロナ禍で社会主義ゲームが大ヒット」なら心が躍る。だが、現実はそう単純ではない。オウエンの壮大な社会実験が数年で失敗したように、あつ森版社会主義もうまくいかないのだ。
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