人助けをしない日本人に「グローバル人材」は無理 英語力以前に「見識と教養」が決定的に足りない

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3つ目は「教養」です。恥をさらしますが、筆者自身、海外での「仕事以外」の会話には相当苦労しました。政治やビジネスの世界で活躍する諸外国の方々の「教養」には驚くほどの深みがあります。いわゆる「リベラルアーツ」の世界です。

リベラルアーツとは、「自由に生きていくための教養」で、哲学、歴史、社会科学、自然科学、芸術、外国語など、幅広い領域の教養を指します。欧米の企業幹部などとの会食では、シェークスピアの演劇や古代ギリシャ哲学の話題などがさりげなく出てきます。東南アジアでは、アジアの歴史、特に、近現代史などに関する相手の見識の深さに驚かされます。

大学からの勉強では遅すぎる

生半可な知識で対応しても、すぐにこちらのレベルを見透かされ、相手にされなくなります。日本の大学でもリベラルアーツをうたうところが増えましたが、「真のグローバル人材」に必要な教養のレベルは、大学から勉強すればよいといったものではなく、小さなときから、学ぶ、触れる、身につけるといったことがなければ太刀打ちできません。

日本における「グローバル人材育成」のカギは、英語などではなく、ここにあると思います。そのためには、日本社会全体の教養レベルの引き上げも必要なので、学者や専門家、修士や博士課程の学生などが、自由に研究・活動し、それを社会に還元できるような環境整備が一層求められます。

「グローバル人材」育成のための教育としては、ほかにも「自主性を養う」とか「自分で考える力やそれを表現し、相手を説得する力を身につける」といった点などが指摘されています。

しかし、まずは「グローバル人材=英語を話せる人」というステレオタイプから脱却し、世界の「グローバル人材」が、どのような価値観を尊重し、行動しているのかを理解することが重要です。

そのうえで、グローバル人材育成を阻んでいる日本社会の構造的な問題点を改善していく努力と、真のグローバル人材育成に向けた教育環境の整備が求められます。円安もあり、日本人の海外留学は高嶺の花になりつつありますが、世界のグローバル化は、さらに進んでいきます。

日本が「ガラパゴス化」し、世界から取り残されることのないよう、将来を担う「真のグローバル人材」の育成は、われわれ大人に課せられた最重要課題です。そのための議論をより深めていくべきと思います。

武居 秀典 DIC インテリジェンス室長

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たけい・ひでのり / Takei Hidenori

一橋大学卒業。三菱商事で主に調査・分析業務に従事。調査部長や北京現地法人社長を歴任。ロンドン、NY、北京などに計14年間駐在。2023年大手化学メーカーDICに移籍。

 

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