「原発新増設」に動く政府へ被災者が怒る当然の訳 福島原発事故から約12年、帰還困難区域のリアル

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原発が抱える「安全性」と「高レベル核廃棄物の捨て場がない」問題についてはどうか。

NPO法人原子力資料情報室事務局長で、経済産業省の審議会「総合資源エネルギー調査会・原子力小委員会」委員を務める松久保肇さんは、政府の掲げる「次世代革新炉」にも懸念を示す。

次世代革新炉とは、「革新軽水炉」「小型軽水炉(小型モジュール炉)」「高温ガス炉」「高速炉」「核融合炉」を指し、これらについて岸田首相は「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設など今後の政治判断を必要とする項目が示された」と前のめりだ。

松久保氏の懸念は「すでに存在する技術を使うものも含んでいるのに、いかにも今までとまったく違った技術を使うかのようなネーミングで国民を惑わせている」点にある。

原発が生み出す高レベル放射性廃棄物は無害化まで10万年かかり、核廃棄物の最終処分も含めたコストは決して他の電源より安価ではない。しかも日本には、安全に保管できる地層はないと言われる。それなのに、原発新増設のために税金投入していく方針は、地震国・日本の姿として正しいのかどうか。

松久保肇氏
NPO法人原子力資料情報室事務局長の松久保肇氏(筆者撮影)

「この家に住んでみろ」

冒頭で紹介した鵜沼さんは、故郷・双葉町に行くと「ほっとする」と言う。この先、避難指示は解除され、鵜沼さんも自由に帰宅できるようになるかもしれない。でも、鵜沼さんは迷い続けている。

「『復興』と言われているけど、絵に描いた餅。言葉だけが踊ってて。私たちは復興の『ふ』の字も実感できない。放射能がなくなったのなら安心だけど。そうではなくて……」

除染したとしても放射線量がどこまで下がるかは未知数だ。山は除染対象外のため、放射性物質が飛来して放射線量が上がる事例が実際に起きている。鵜沼さんの家は2方向が山だ。事故で溶け落ちた核燃料は、取り出しの具体的なメドも立っていない。

「この家も、私の年も戻してほしい。原発事故のときは50代だったけれど、もうすぐ70歳になるんですよ。ここを更地にして、また一からやれるかって……。(原発の新増設は)絶対に反対。絶対安心ということはない。間違ってもない。それなのに、また原発造るって。ははは。何回事故が起きたら学習するんですかね。国の偉い人たちに何か言うとしたら、『この家に住んでみろ』ということです。私の家、貸しますよ」

青木 美希 ジャーナリスト

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あおき みき / Miki Aoki

札幌市出身。北海タイムス(休刊)、北海道新聞を経て全国紙に勤務。東日本大震災の発生当初から被災地で現場取材を続けている。「警察裏金問題」、原発事故を検証する企画「プロメテウスの罠」、「手抜き除染」報道でそれぞれ取材班で新聞協会賞を受賞した。著書「地図から消される街」(講談社現代新書)で貧困ジャーナリズム大賞、日本医学ジャーナリスト協会賞特別賞など受賞。近著に「いないことにされる私たち」(朝日新聞出版)

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