「原発新増設」に動く政府へ被災者が怒る当然の訳 福島原発事故から約12年、帰還困難区域のリアル
それ以降、鵜沼さんは避難生活を強いられている。双葉町丸ごとの移転に伴い、埼玉県加須市へ。慣れぬ土地で暮らすうち、夫は食道がん、大腸がん、肝臓がんになり、手術した。のちに突発性胃潰瘍を発症。2017年2月23日に他界した。68歳だった。
鵜沼さんは現在も加須市に住んでいる。“流転”は終わっていない。
原発新増設の方針に対する疑問
新増設抑制したはずの方針を転換し、なぜ原発を増やすのか。岸田首相は今年7月14日の記者会見で次のように述べている。
「資源が乏しいわが国において、単一で完璧なエネルギー源はないというのが、まず基本的なわが国の置かれている状況であると思っています。その中で、安価で安定的に、かつ脱炭素に対応していくエネルギーをということを考えますと、結論として、多様なエネルギー源をバランスよくミックスさせていくしかない」
この方針に対する疑問の声は引きも切らないが、いくつかを挙げておこう。1つは、次世代に向けた新エネルギーの技術開発が停滞し、遅れがさらに遅れることへの懸念だ。
「政府が太陽光発電を本気で進めてこなかったため、企業側はこの間、『また政権は原発推進に戻すのではないか』と考えて開発に力を入れず、結果として日本は太陽光パネルや充電池、EV車市場で世界に大きく後れをとってしまった」(環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長)
太陽光パネルのシェアは2005年ごろ、日本が世界一で市場の約5割を占めていた。その後の落ち込みは著しく、2020年の日本製パネルはたった0.3%しかない。そうした結果、総発電量に占める再生可能エネルギーの割合を2030年度までに36~38%まで増やすとした政府目標は、期限まで10年ほどしか残っていない2019年度時点で18%にとどまってしまった。
自民党内には「太陽光は中国を利する」という声もあるそうだが、エネルギー政策の迷走がもたらす結果は覆い隠しようもない。
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