「原発新増設」に動く政府へ被災者が怒る当然の訳 福島原発事故から約12年、帰還困難区域のリアル

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福島県双葉町の帰還困難区域にある家
福島県双葉町の帰還困難区域にある鵜沼久江さんの自宅。とても人の住める状態ではない(筆者撮影)
岸田政権が、原発の新増設に向けて舵を切った。経済産業省はすでに、10年後に原発の新設を始めるロードマップを作成済みだ。東京電力福島第一原発の事故から11年8カ月。現在も数万人の避難者がおり、原発2.5キロ圏内では今も家畜の骨が散乱する。そんな中で原発の新増設に突き進む日本。現地の人々はいま、何を思っているのか。

いまだに放射線量が高い帰還困難区域

福島県双葉町の鵜沼(うぬま)家に入る道路は、今も銀色のゲートで行く手を阻まれている。看板には「この先 帰還困難区域につき通行止め」という文字。住民の立ち入りは厳しく制限されている。

帰還困難区域は7市町村の計337平方キロメートルに及んでいる。住民登録している人は約2万人。国はその面積の8%を「特定復興再生拠点」とし、避難指示解除を始めているが、鵜沼さん宅の地域は対象外だ。

震災後に夫を亡くした鵜沼久江さん(69)はこの10月、20日ぶりにこの自宅に戻り、私も同行した。

ゲートの前で鵜沼さんが電話すると、3分後に青い作業服の男性がやってきた。男性は、鵜沼さんと私の運転免許証を確認。施錠された銀色のゲートを押し開けた。鵜沼さんが車を進ませると、セイタカアワダチソウやササなど高さ2メートルほどの草が道の両側を埋め尽くしていた。

「ここはみんな田んぼです」

どこが畔(あぜ)なのか。田んぼを思わせるものは何も見えない。

鵜沼さんは、ハンドルを握りながらフロントガラスに顔を近づけ、道路をじっと見つめる。道路には落ち葉が積もり、その下にどんなものが落ちているのか、注意しなければならないからだ。

2分ほど車を徐行させたところで、ピーピーという警告音が鳴りはじめた。私が持ってきたウクライナ製線量計のアラームだ。初期設定で0.3マイクロシーベルト毎時を超えると鳴るようになっている。事故前の双葉町は0.03マイクロシーベルト毎時程度だったので、10倍超ということだ。

数値はその後も上がっていく。

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