村田製作所の中国増産投資はなぜ非難されるのか 経済安保をめぐり性急な企業批判が台頭する危うさ

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先端技術を中心とした米中の覇権争いがある中で、中国に事業を依存しすぎることもリスクである。経済安全保障が今の日本にとって重要であるのは間違いない。これまで低コスト化のために生産拠点を中国に依存してきた企業、さらには制度整備が不十分で結果として技術情報の流出を許してしまった政府は、拠点再編や制度構築などの対応を進めていく必要がある。

中国・無錫に建設する新生産棟のイメージ(画像:村田製作所提供)

しかし、今回の村田製作所の増産投資決定に対する非難は、同社の実態をまったく理解していない的外れなものだ。むしろ同社の経済安保に対する姿勢を理解しないがゆえに、日本のあるべき戦略や利益を損ないかねない非難である。

国内生産比率6割の希有な存在

村田製作所の主力製品は積層セラミックコンデンサー(MLCC)だ。電気を蓄えたり放出したりすることで電圧の変動を抑えるなど、電子機器内の電気の流れを安定化させる機能を持つ。スマートフォンには約1000個、自動車には6000~1万個が搭載される電子機器に必須の部品である。

同社はこのMLCCで圧倒的な技術力を誇り、海外売上比率は9割超、世界シェア4割を握る。グローバル企業である一方、村田製作所は国内生産比率が65%という希有なメーカーでもある。同業大手でMLCC世界シェア上位のTDKや太陽誘電は、全社海外生産比率がそれぞれ8割以上と7割弱である。

コンデンサー
村田製作所のコンデンサー(撮影:尾形文繁)

TDKは、二次電池を手がける香港の大手企業ATLを傘下に持つことが海外比率が高い理由の1つだが、それを考慮しても村田製作所の国内生産重視の姿勢は同業他社やほかの製造業以上に明確だ。少なくともサプライチェーン寸断によって国内でMLCCの供給不足が起きる恐れを同社にぶつけるのは誤りだ。

村田製作所が国内生産を重視するのは、自社の先端技術の流出を防ぐためだ。同社の村田恒夫会長は過去に記者のインタビューに「最先端品を中心に国内で生産している」としたうえで「一時的に技術情報が流出したとの認識はあったが、最近はない。人材流出を防ぐために待遇でも対応している。そもそも移籍先で手持ちの技術を使い果たせば、技術者は優遇されなくなる。最先端の技術を研究できるのは当社、ひいては日本の強みだ」と技術流出への対応や管理の堅固さを強調した。

また中島規巨社長も過去のインタビューにおいて固有の技術を持つ製品は日本から輸出し、それ以外は現地生産の流れになるかという記者の問いに「そうだ」と回答している。

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