村田製作所の中国増産投資はなぜ非難されるのか 経済安保をめぐり性急な企業批判が台頭する危うさ
実際に村田製作所は技術流出を困難にする各種取り組みを継続してきた。MLCCの素材から工場の製造装置までほぼ自社開発である。さらに、これらの装置が外部に流出しても村田製作所と同じ製品は作れない。部材であるセラミックの焼成時の温度や時間管理は各現場をそれぞれ担う作業員にしかわからないうえ、そこから完成品にいたるまでの各工程間の調整を担う現場のマネジメント層がいなければ、同社が作り出す製品は生み出せない。
部材、装置、人にいたるまでそれぞれに独自のノウハウが注ぎ込まれてブラックボックス化されているため、一部の技術者が他社に移籍しようが、装置が奪われようが、同社がマネジメントするすべてのノウハウがなければ、製品や技術を模倣できない。
今回非難された増産投資はMLCCに使われるセラミックシートに関するもの。これまでも現地で生産されてきたが、情報流出などで大きな問題は起こっていない。一部の批判者は、台湾有事に際して同工場が接収され、技術が奪取されると懸念するが、経営首脳陣の過去の発言から読み取れるように競争力の核心にすぐさま関わるとは考えづらく、同社のノウハウやマネジメントなしで生産技術の水準を維持するのは困難だ。
中島社長は「経済の(米中)二極化は、われわれ(電子部品メーカー)からみれば好ましくないが、中国も大きなマーケットであり続ける中、米中双方に対応していかなければならない」と話しており、村田製作所は2年以上前から経済圏の2極化想定の下、生産拠点の分散化を進めてきた。
米中対立が激化した現在でも、世界のスマホやパソコンなど多くの電子機器は、日米中韓台が主に構成する東アジアの分業サプライチェーンによって生産されており、完成品の組み立ては中国が主力を担う。村田製作所の売り上げの5割も中国・台湾向けであり、仮に米中のデカップリングが一段と進み、日本から中国への部品の輸出が困難になれば、中国における同社のこれまでの売り上げを他社が代替することになりかねない。結果、村田製作所の世界シェアは低下する恐れがあり、今回の中国での新規投資を含めたデカップリングに対応した生産拠点の分散化は必要だ。
これまでの中国依存度次第で経済安保対応は変わる
国内生産に軸足を置いて先端技術を保全しながら、デカップリング対応を進めて世界シェアを維持する村田製作所の経営方針は経済安保上の模範の1つとして参考にされこそすれ、非難の対象となるものではない。
直近では村田製作所以外の電子部品大手が相次いで国内工場に投資を行っているほか、空調機器やAV機器など多数のエレクトロニクス企業が国内回帰や中国に依存しない生産体制の構築を進めるが、それはこれまで過度に海外に依存していたことの裏返しともいえる。各企業が過去に国内と海外のどちらで生産を強化していたかによって、現在の経済安保に対応する際の投資先地域が異なっているにすぎない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら