寝たきり状態で強制退院、「3カ月ル-ル」の非情 緩和ケアは高額、「終活」に立ちはだかる難題

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症状緩和、終末期ケアを目的とする緩和ケア病棟は、1990年に緩和ケア病棟入院科が診療報酬制度に新設されたことを背景に整備が進められてきた。設置主体は国や地方公共団体、大学、民間病院などで、全国にある病床数は一般病床約90万床の1%程度に相当する。

がん患者の死亡者数は年間40万人近くになっているが、その死亡場所は診療所・病院が約7割を占め、緩和ケア病棟も1割強に上る。説明した医師は「この10年くらいで緩和ケアを利用する人は増えていますよ。患者本人も家族も安心して過ごせるようにサポートしていきます」と語る。

「入院破綻」を懸念し断念

たしかに、がんと診断されてから家族は辛い日々を送ってきた。父親の痛みや気持ちを考えれば、最期は少しでも安らかに迎えてほしいとの思いはある。しかし、Aさんは緩和ケア病棟に父親を入院させることを断念した。貿易会社で働くAさんの夫の年収は約800万円あるが、大学受験を控える長女や私立校に通う次女の教育費が膨らみ、父親の入院期間が長引けば「入院破綻」を招きかねないとの考えにいたったからだ。

「要介護4」と認定された父親は自宅に戻り、訪問医療・看護・介護をフル活用して療養生活を送る。それでも、おむつ代などを含めれば1カ月に15万円程度はかかる。しかし、「やっと、自分の家に帰ってこられたよ」と笑顔を浮かべる父親の表情は家族の負担を和らげる。

「緩和ケア病棟に入っていたほうが良かったと感じる日がいつか来るかもしれない。何が正解なのか分からないけど、最期を一緒に迎えられればお父さんは嬉しいのではないかな」。Aさんは自分に言い聞かせるように母親の肩をなでた。

厚生労働省によると、2019年にがんと診断された人は約100万人に上り、死亡者は全体の3割近くを占める。高齢化を要因に増加し続けており、部位別では、男性は「前立腺がん」(16.7%)、「大腸がん」(15.5%)、「胃がん」(15.1%)が多い。女性は「乳がん」(22.5%)が最も多く、次いで「大腸がん」(15.7%)、「肺がん」(9.8%)と続き、がんは約40年間も日本人の死因トップだ。

人によって闘病期間は異なるものの、通院先に入院できれば最期まで安心とは言い切れない。老後に向けた資産形成への関心は強まっているが、加入する保険の種類や退院後の生活イメージも確認しながら「終活」すべきであることも忘れてはならない。

佐藤 健太 マネーセージCMO、ファイナンシャルプランナー

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さとう けんた / Kenta Sato

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』執行役員。心理カウンセラー・教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している。

 

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