寝たきり状態で強制退院、「3カ月ル-ル」の非情 緩和ケアは高額、「終活」に立ちはだかる難題

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そして、2つ目は診療報酬制度の問題が存在する。医療機関が受け取る診療報酬は高齢者が長期入院すれば低くなるような設計になっている。超高齢社会の到来で膨張する医療費を抑制する一環で、一般病棟で90日を超えて入院を継続する場合には病院の利益が少なくなってしまう仕組みなのだ。このため、早いところでは「治療済み」を理由に2週間で転院や介護施設に移るよう検討を促すことがある。

母親と一緒に病院に赴いたAさんは「退院するといっても、自宅での介護は大変。いったい、どこに行けば良いのでしょうか」と半ば喧嘩腰で伝えた。すると、医師は「近くに緩和ケアをする病院があるので、そちらに行って入院予約を取ってきてもらえませんか」と淡々と答えるだけだった。やむなく教えられた「転院先」に向かうと、追い打ちをかけるような事態に直面する。

転院先候補の緩和ケア病棟は高額だった

「お父さんの場合、1カ月で50万円以上は必要になりますね」。緩和ケア病棟を持つ医療機関の看護師は入院費用が高額になることの説明を始めた。もちろん、入院治療や手術などで医療費が高額になった場合、加入する公的医療保険に申請すれば自己負担限度額を超えた分が取り戻せる「高額療養費制度」は適用できる。

これまで入院してきた病院では、保険適用される診療で支払った額が「ひと月」で上限額を超える場合、その超過分の支給を受けることができた。上限額は年齢や所得水準によって異なるものの、Aさんの父親の自己負担額は1カ月で10万円程度だ。

だが、高額療養費制度では先進医療にかかる費用や入院時の食事代、差額のベッド代が対象外となる。緩和ケア病棟は全室個室で、すべての部屋にテレビや洗面所、トイレが備え付けられている。ベッド代として1日あたり約1万7000円、食事代として1日約1500円などの自己負担が必要とのことだった。

父親は医療保険に未加入であり、月額約20万円の年金で暮らす母親が一気に5倍に膨れ上がる入院費を支払い続けることは困難だ。老後のために夫婦で貯めた預貯金は人並み程度にあるものの、残される母に少しでも遺しておきたいとの思いも脳裏をよぎる。

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